セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第10回 秋田杉香る曲げわっぱの日本酒バッグ

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2000年もの時を経て磨き上げられた、秋田の伝統工芸「曲げわっぱ」。
心地よい杉の香り。芸術的な曲線を描く一枚の板。そこに施されるこだわりの装飾――。
この技術を活かしてつくられた今回のニュー・クラフトは曲げわっぱの新たな可能性を感じさせる「日本酒バッグ」だ。

曲げわっぱの伝統

縄文時代の曲げわっぱ
曲げわっぱの弁当箱
子どもたちからの評判も上々

見直される曲げわっぱの魅力

平成8年に秋田市内で縄文時代の曲げわっぱが発掘され、
大きな注目を集めた。
それは今からおよそ2800年前のものだという。
この工芸品が歩んできた歴史の古さを偲ばせる出土品だった。

曲げわっぱのふるさと、秋田県・大館市。
江戸時代に同地で盛んにつくられるようになったきっかけは
「関ヶ原の戦い」だ。この天下分け目の決戦で、
豊臣方についた水戸・佐竹家の藩主は、豊臣方の敗北により、
北の秋田に「お国替え」となる。

禄高も半分に減らされ、財政難に苦しむ佐竹家の藩主は
領内に群生する豊富な杉に着目し、
曲げわっぱづくりを武士の内職として奨励したのである。

江戸時代も中頃になると、曲げわっぱは大館名物となり、
各地に広まるも、時代を経るにつれて、多くの“ライバル”が登場。
その存在感は徐々に薄まっていく。

まず昭和初期に登場したのが、丈夫で長持ちの弁当箱、アルマイト。
さらに、戦後、昭和30年代には、電気炊飯器が家庭に浸透し、
かまどでご飯を炊いて、おひつに移す、
という日本の風景が家庭から消えていった。
その10年後には、アメリカからタッパーウェアが上陸。
すると、曲げわっぱは、もはや過去の遺物として
人びとの記憶から忘れ去られていった。

しかし、近年、ふたたび曲げわっぱの魅力が見直されはじめた。
通気性がいいため、炊きたてのごはんを入れてもべたつかない。
しかも、杉の板が水分をほどよく吸収してくれるため、
冷めても美味しい。
さらには、杉の香りが心地よい。
こうした理由から、この曲げわっぱを給食の器として
週に一回採用している大館市内の小学校もある。
子どもたちからの評判も上々だ。

曲げわっぱの技術

曲げわっぱ職人の柴田慶信
年輪が縞模様の「柾目」
均一に剥ぎ取りされた板
木に水を染み込ませる
ゴロで板を丸めていく
木製のはさみで仮止めする
「桜皮とじ」と呼ばれるとめの作業
底入れ
完成

厳選素材でつくられるお櫃

曲げわっぱづくりに欠かせないのが、
日本三大美林のひとつ「天然秋田杉」。
木の成長が遅いため、年輪の幅が狭く丈夫なのが特徴だ。
大館市にある「柴田慶信商店」の柴田慶信さんは、
この天然杉を使って曲げわっぱをつくる数少ない職人の一人。
つくり続けて50年になる。

作品づくりに使えるのは、天然秋田杉のごくわずかな部分のみ。
「芯の部分と両端の白太という部分は使えない」
(柴田さん)という。

切り出された木をよく見ると、年輪が縞模様の「柾目」と、
曲線模様の「板目」とがあることに気づく。
中央に近い場所にある柾目から
白太(樹皮に近い白い部分)を取り除いた
「赤味」という部分だけが、曲げわっぱづくりに使用される。
赤味の部分を指差し、柴田さんは語る。
「ここに細い線が入っていますね。
この線は、寒い場所ほど細くなる。
これが細いほど丈夫で、通気性がいいのです」。

お櫃づくりは、板の切り出しからはじまる。
柾目の美しい風合いを損なわないよう慎重に削る。

続いては、板の端を削る「剥ぎ取り」。
板を曲げて、組み合わせるときに、うまく合致するかどうかは、
この作業の出来具合にかかっている。
曲げ合わせる部分を両端とも同じ厚みになるよう鉋で斜めに、
ミリ単位で削る。
長年の経験で培われた手の感触だけが頼りだ。

削る量が少なすぎると出っ張りができるし、
反対に、削りすぎると、曲がりにくくなる。
その加減が重要なんです
ー 柴田慶信

“曲げ”の職人技

そしていよいよ、曲げわっぱの真髄、曲げの作業だ。
まず、硬い秋田杉の板を水に浸し、その後一晩ねかせて、
木にたっぷりと水を染み込ませる。
翌日、水の温度を80度まで上げる。
こうすることで、木の繊維が柔らかくなり、
板が曲がるようになるのだ。

「ここで秘密道具が登場する。
曲げの鍵を握る「ゴロ」と呼ばれる丸太だ。
熱湯から取り出したばかりの板を、
ゴロに巻き付けるようにして、丸めていくのである。
柔らかくなったとは言え、
強すぎると割れてしまい、弱すぎると曲がらない。
絶妙な力加減が重要だ。
何度か巻き込み転がしてゆくと、
硬い板が美しい丸みを帯びた形状に変化していく。
ある程度、曲がったら円筒形の板に巻き、
力を入れ、「剥ぎ取り」をした板の両端を合わせていく。

続いて登場するのは、木製のはさみ。
板の合わせ目を、これで仮止めする。
微調整を繰り返しカタチが決まったら、
3~4時間乾燥させ、板に曲線を記憶させる。

そして、2度目の「乾燥」。
専用の乾燥室で7日から10日間乾燥させる。
完全に乾いた板は、反発力を失い元に戻りにくくなるのだ。

次に、「つま」と呼ばれる板の両端を小刀で削り取る
「つま取り」の作業。
両端を丸めることで、板が元に戻る力を逃すのである。
そして「接着のり」を塗り、しっかりと固定。
この状態でさらに1日おいた後、お櫃本体が完成する。

本体が完成したら、「桜皮とじ」と呼ばれるとめの作業を行う。
職人の個性が発揮されるのはここ。
山桜の皮をなめしたかばと「目通し(めどうし)」だ。
定規などは一切使わず、
経験を頼りに、木目に沿って切れ込みを入れる。
この切れ込みをかばで縫いとめる。
ここに装飾を施すのが柴田さんのスタイルだ。
「桜皮」で独創的な紋様を描いていく。

作品全体に対するデザインにも、柴田さんの個性が表れている。
「優しい、丸みを帯びた形にすることを心がけています。
角張ったところがなく、ふたも平らではなく、
少しふっくらするように。
そうすれば、心地よいデザインになるんですよ」。
今回つくったお櫃は、ビジネスマンのリクエストに応え、
カバンに収まりやすいよう、美しい丸みを帯びたものにした。

最後の作業は、「底入れ」。
底板を本体に組み込んだら、
当て板をしてまんべんなく叩き打ち込んでいく。
そして、底輪で補強。上げ底にしたら完成だ。

切り出しから、およそ半月をかけて完成した曲げわっぱのお櫃。
仕上げに塗装を施さないのも、柴田さんのこだわりだ。
「風合いや香りのいい秋田杉には、
塗料を施す必要はないと思っています。
素材の魅力を愉しんでもらいたいですね」。
素材への想いが美しさを生むのである。

曲げわっぱ × 日本酒バッグ

新たなアイテムづくりに挑む柴田昌正さん
完成品
肩にかけるストラップもついている

曲げわっぱの日本酒バッグ

今回、新たなアイテムづくりに挑むのは、
伝統工芸士で、柴田慶信さんの仕事を受け継ぐ三男の柴田昌正さん。
これまで、子どもたちから人気の高い
おにぎり型のユニークなお弁当箱や金魚鉢など、
新しい曲げわっぱの創作に取り組んできた職人だ。
「秋田杉の特徴を活かしつつ、
曲げわっぱの新しい可能性を感じさせるような
アイテムをつくりたいですね」と作品づくりへの想いを語る。
「原材料が少ないなか、高さがある柾目を確保するのが大変でした」
と語る昌正さんが手にしているのは、秋田杉を細長く加工したもの。
従来の曲げわっぱと比べると、ずいぶん細長い。
蓋をはずすと、四合瓶とペアのおちょこが出てくる。
これはいったい――。

完成したのは、曲げわっぱの「日本酒バッグ」。

頑丈な曲げわっぱに守られた日本酒を、
心地よく香る秋田杉のおちょこで愉しむというニュー・クラフトだ。
肩にかけるストラップもついているので、
これからのお花見シーズンにもぴったり。

アーツ&クラフツ商会 Lot.010 曲げわっぱの日本酒バッグ

ダイジェスト動画

放送第10回:曲げわっぱの日本酒バッグ

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