セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第11回 遊び心あふれる伊賀くみひもの猫の首輪

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代々受け継がれる超絶技巧が生み出す伝統工芸、「伊賀くみひも」。
あでやかな色と柄、そして絶妙な締め心地は、今もなお多くの人を魅了する。
この組紐を使って誕生したニュークラフトは、なんともキュートな猫の首輪だった。

伊賀くみひもの伝統

伊賀くみひも
武具に用いられる組紐

伊賀くみひもの歴史

三重県伊賀の伝統工芸として知られる「伊賀くみひも」。
現在、手組紐(てぐみひも)の9割がここでつくられている。

ただし、組紐の歴史は伊賀に伝わる、はるか以前にさかのぼる。
縄文時代には、すでに組紐がつくられており、
縄文土器に文様をつけるために利用されたともいわれている。

奈良時代に大陸から高度な技術が伝来すると、
組紐は日本独自の発展を遂げ、
やがて武士の時代になると、武具に用いられるように。
武士の一生の晴れ着である大鎧(おおよろい)には、
鮮やかな色彩の組紐が使われたのだ。

意外なことに、この組紐が「帯締め」として
使われるようになったのは、19世紀になってから。
亀戸天神の太鼓橋を渡り初めすることになった
深川芸者が「お太鼓結び」を考案したのがはじまりだ。

この帯締めの習慣が世に広まった明治時代以降、
組紐のデザインはさらに多様化していく。

伊賀くみひもの技術

板の上に座って糸を組む「高台」
防染をほどこす3代目の藤岡隆さん
染色された組紐
玉付け
綾をとる
綾書き
湯のし
完成

計算された染色の技

伊賀には、約30軒の組紐店がある。
今回訪ねた「藤岡組紐店」は、4代続く老舗。
家族4人で組紐をつくり続けている。

店で使われる組台は2種類。
ひとつは、上板の中央にあいた穴から玉に巻いた糸を出して、
組みあげる「丸台」と呼ばれるもの。

もうひとつは高台。
たたみ半畳分ほどの大きさの組機だ。
その中央にある板の上に座って糸を組む。
この高台の代表的な組み方が高麗組である。

糸の準備にとりかかるのは、3代目の藤岡隆さん。
紡績機で絹糸を束にしながら、
必要な長さを枠(わく)に巻き取る。
それを270cmずつに切断。
そして高台にとりつけやすいよう、撚りをかけていく。

続いては、防染(ぼうせん)。
染色したい部分以外に色がつかないように、
丁寧にビニールで覆っていく作業だ。

組紐は水につけると縮むため、
組み上がりをイメージして染める必要がある。
隆さんは言う。
「帯締めの端から15 cmのところに色をつけたいとします。
その場合、染色して糸が縮んでしまうことを計算して、
糸の20センチのところに染色しなければなりません」

帯締めの表と裏で糸の色を変える高麗組。
今回は白に近い薄桜色が表で、グラデーションが裏になる。

糸を組み上げるのは、妻・恵子さん。
まずは、高台に糸をとりつける作業から。
撚りがかかり、とりわけやすくなった糸を一条ずつとる。
そして「玉付け」と呼ばれる作業。
撚りをまっすぐに戻したあと、
120gのおもりの入った玉に糸を巻き付けていく。
高台には、糸をかける場所が上下に2カ所。
下の段には裏糸を、上の段には表糸かけ、
合計60玉を取り付けたところで準備完了。
いよいよここからが本番だ。

柄を組む超絶技巧

まずは、無地の部分から組んでいく。
糸の間を縫うよう手をくぐらせることを「綾をとる」という。
綾をとったところに糸を交差させヘラで打ちこむ。
このときの力加減が、帯締めの締め心地を左右するのだという。

次は、綾書きという手順書をベースに、
上下の糸を入れ替えて柄を出していく。
これを「柄を組む」という。

この綾書きがまるで暗号文だ。
たとえば、「2345なみあがる」という綾書きで手順を説明すると、
次のようになる。

まず、高台の上の段の2本目から5本目の糸を、
下の段の2本目から5本目の糸と入れ替える。
その後、「なみあがる」といって、下の段で2本ずつ綾をとり
その間に一番奥の下糸を通し、反対側の上の段において、
さらに、上の段でも2本ずつ綾をとり、
一番奥の上糸を通し、それを下の段に……、
という複雑な作業である。

このような綾書きは代々伝えられ、
同店には200種類以上が残されているという。

「綾書きは、楽譜のようなもの。
楽譜の通りに演奏すれば、音楽が奏でられるように、
綾書きを見れば、昔の柄も再現できるんです」と恵子さん。

ただし、楽譜が読めるからといって、
どんな曲でも演奏できるとはかぎらない。
熟練の技があってこそ、複雑な柄を組むことができるのだ。

糸を組みはじめてから3日目。
160cmの帯締めがようやく組み上がる。
そして「コロ掛け」という作業に。
転がし台の上で、重さ6kgほどあるローラーをかけ、
組み目に凹凸がでないよう、きれいに整える。

続いて「房付け」へ。
組んだ部分を少しだけほどいてほぐしたあと房にして、
しっかりと結び直す。

最後は「湯のし」。
房を湯気にあて櫛でとくと、
絹がピンと伸び艶やかな光沢をおびてくる。
作業開始から2週間で、ようやく完成だ。

「手組の帯びしめは、けっして緩みません。
一度お締めいただいたらわかります。
誇りをもって、お客様にもおすすめさせていただいています」
と恵子さん。

伊賀くみひも × 猫の首輪

藤岡組紐店4代目のひろはるさん
完成品
愛猫の可愛さを引き立てる

受け継がれる想いと革新される伝統

今回、伊賀くみひものニュークラフトにチャレンジするのは、
藤岡組紐店4代目のひろはるさん。

ひろはるさんは、伝統を受け継ぎながらも、
新たなデザインに挑戦する職人だ。
たとえば、毛玉のついた糸を取り入れた帯締め。
「平坦な帯締めの柄に立体感を出したかった」のだと、
ひろはるさんは語る。

しかし、実際に毛玉がついた糸を組んでみると、
大きな難問に直面した。
毛玉が糸と糸の間にはさまり、押し潰されてしまったのだ。
試行錯誤を重ね、組むたびに一つひとつ毛玉をとりだしていく、
という地道な作業を繰り返して完成させた帯締めは、
今では「モケモケ」と呼ばれ、若い女性のあいだで評判だ。

そのほかにも、革ひもを取り入れたものなど、ひろはるさんは、
組紐の新たな可能性を模索しつづけている。

これまで使われなかった“異素材”を取り入れることは、
本来、掟破りです。
しかし、このようなチャレンジを続けていかないといけない。
どれほどいいものをつくったとしても、
使ってもらえなければ意味がない
ー ひろはる

そんなひろはるさんが、ニュークラフトの素材に選んだのは、
表糸に鮮やかな黄色、裏糸に明るい紫の絹糸。
組み方には、その用途から帯締めほどかたくない、
内記組(ないきぐみ)を採用した。

地道な作業を続けること2週間。
ついにニュークラフトが完成。
できあがったのは猫の足跡がデザインされた、
伊賀くみひもの猫の首輪だ。
背には「タマ」の文字。
名前もしっかり組まれている。
リバーシブルで使えば、さらに違う柄が愉しめる遊び心あふれる首輪だ。

我が子の可愛さを引き立てる、
これぞまさに伊賀くみひものニュークラフトである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.011 伊賀くみひもの猫の首輪

ダイジェスト動画

放送第11回:伊賀くみひもの猫の首輪

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