セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第15回 豊かなひとときを提供する備前焼の水出しコーヒー

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北大路魯山人が愛した器。それは岡山の伝統工芸、備前焼。
その魅力は、素朴でぬくもりのある独特の風合いだ。
およそ1000年もの間、受け継がれてきた伝統の美を、今を生きる職人がニュークラフトへと変換。
その見事な手技とアイデアを、一杯のコーヒーをいただきながら堪能しよう。

備前焼の伝統

備前焼
壷や甕などの生活雑器
岡山県備前市伊部(いんべ)

時代に翻弄された備前焼の盛衰

備前焼の歴史は古く、
古墳時代の須恵器(すえき)にまで遡る。
高温で焼く須恵器の技法を受け継ぎ、
岡山県備前市伊部(いんべ)に備前焼が生まれたのは平安時代のこと。

当時つくられていたのは壷や甕などの生活雑器。
室町時代には、大きな甕も大量に焼ける共同窯が築かれ、
伊部はその一大産地へと発展。
とくに、すり鉢は日本全国に広まり、その丈夫さは
「備前のすり鉢、投げても割れぬ」と謳われたほどである。

そんな生活用品に過ぎなかった備前焼の価値を、
芸術にまで高めた人たちがいた。
安土桃山時代、豊臣秀吉や、千利休などの茶人たちである。
備前焼の素朴な美をわび茶の世界に取り入れたのだ。

種壷などの生活雑器は、やがて芸術的な茶道具に。
茶の湯の全盛期と同じくして、備前焼の人気も最高潮に。

しかし江戸時代になると、
人びとは有田焼など表面に艶のある陶磁器を好むようになり、
その流行を追った備前焼もまた、
表面がなめらかな器や細工物をつくったことも。
しかしそんな試行錯誤もかなわず、
備前焼の人気は次第に衰えていった。

明治期、文明開化の影響で、器の人気は外国製品や陶磁器へ集中。
備前焼は廃れざるを得なかった。
窯元たちは、土管やレンガをつくり食いつなぐ事態になったという。

そんな窮地を救ったのが人間国宝の金重陶陽(かねしげ・とうよう)。
備前焼、中興の祖と称される作家だ。
陶陽は、茶人たちを魅了した桃山時代の
素朴な作風に、備前焼本来の美を見出した。
金重陶陽にはじまる備前焼の復興により昭和30年代に
再び脚光を浴び、今もその人気は続いている。

備前焼の技術

備前焼に携わり20年の長男、肇さん
1週間ほどかけて水分を抜く
菊練り
窯変
窯焚き
10日間窯焚きを続ける
還元がかかり模様に変化が
今回一番の出来と誇る一輪挿し

「窯変」が生む絶妙な風合い

釉薬を一切使用しない備前焼。
では、どのようにしてこの絶妙な風合いが生まれるのか。
その技を見るべく訪れたのは、
100以上もの窯が集まる備前市にある、一陽窯だ。
由緒ある窯元、木村家の伝統を受け継ぐ木村宏造さんのもと
備前焼に携わり20年の長男、肇さんにその技を見せていただいた。

まずは土づくり。
使用するのは、田んぼの2・3m下の限られた層から採掘するもの。
鉄分が多く、ねばりが強いのがその特徴だ。
この土を1年程乾燥させた後、細かく砕く。
水に浸して不純物を取り除き、1週間ほどかけて水分を抜く。

次は、土を練る作業。ただこねているのではない。
熟練の技によって土のなかの空気を抜いているのだ。
練られた土の塊が菊の花のように見えるため、これを「菊練り」という。
空気が残っていると、ロクロを引く時に、大きな妨げになるからだ。

菊練りの後も、さらに入念に空気を抜いて
ようやくロクロでの成形がはじまる。
丹念な菊練りの工程を経るからこそ、繊細な器づくりに臨めるのだ。

次は窯詰め。
窯を焚くのは春と秋の年に2回、一度でおよそ3000個もの器を焼く。
それらを窯のなかへ並べるだけで、重労働だ。
しかも、ただランダムに並べているわけではない。
器の模様は、窯のどこに配置するかによって決まるのだ。
とくに、器を横に寝かせる場所からは、
備前焼でもっとも希少な模様が生まれる。

それは「窯変」といわれるもので、火のあたり具合によって、
黒や赤、緑など、多用な色が混在する独特の風合いを生む。

“窯変”や“ころがし”と言いますが、窯に寝かせて焼くと、
間近で割り木が燃えるところと、
火が直接当たらない部分とでは景色がまるでちがいます。
火のまわり方をイメージしながら窯につめていきますが、
ほとんど自分の思ったとおりにはならない。
それが楽しいんです。
— 木村肇

職人の知恵と自然の力が描く美の世界

いよいよ窯焚き。
燃料は油分の多い赤松の割木。
その使用料は一度の窯焚きでおよそ10トンにも及ぶ。

備前焼の登り窯では、まずウドと呼ばれる窯の焚き口で火を焚き、
10日間にわたり四つの窯で焼く。
こうして長い時間をかけゆっくりと焼き締めていくことで、
釉薬を使わずとも水漏れのしない丈夫な器ができるのだ。

24時間昼夜を通し、交代で火を焚き続け、火を入れてから8日目。
窯焚きはクライマックスを迎える。
このときの窯の温度は、およそ1000度。
仕上げの工程だ。

この日まで閉じられていた窯の両側にある小窓から、割り木を入れる。
これは、窯全体の温度差を解消し、さらに器にかかる灰の量を調節し、
焼き上がりの模様に変化を与えるため。

窯の温度が1200度を越えると、窯焚きもいよいよフィナーレ。
正面の焚き口を塞ぎ、窯の横にある別の小窓から大量の木炭を投入する。
これは、木炭を燃やしてガスを発生させることで、
窯の内部を酸欠状態にするための作業。
「還元」と呼ばれる状態をつくることで、
器の模様にある変化をおこすのだ。
こうして10日間続いた窯焚きの幕が閉じる。

炎が直接あたらない裏側は、還元がかかり、
ちょっと青っぽかったり黄色くなったりしています。
上のほうのは、割り木があたって割れることもあるし、
温度差でひびがはいることも。
— 木村肇

窯変で、満足のいく器ができるのは全体のわずか1%ほど。
それは人の力が及ばない、自然が描き出す美の世界。
50年以上、備前焼をつくり続けてきた宏造さんは言う。

綺麗な模様を出すためには、
技や経験よりも鍵となるものがあります。
それは天候です。
湿気があると色がにごってしまうことも。
人間の力より自然の方が強いということ。
— 木村宏造

宏造さんが今回一番の出来と誇る一輪挿しは、職人の技と、
自然の力が一体となった備前焼の、魅力にあふれていた。

備前焼 × 水出しコーヒー器具

アイデアを形に
完成品
少しずつ滴り落ちる水

絶妙な風合いを生む職人の知恵と自然の力

伝統の職人技と受け継がれる美意識、
そして自然の力によって生まれる独等の風合い。
そんな唯一無二の魅力を放つ備前焼から、
どんなニュークラフトが生まれるのだろうか。
新たなアイテムづくりを依頼したのは、料理が趣味と語る肇さん。
焼物のアイデアは、日常の暮らしから生まれるのだとか。
肇さんが料理で使うすり鉢もそのひとつだ。

子供の離乳食をつくろうと思って、
小さいすり鉢を探したのですが、なかなかいいものが無くて。
そんなときに妻に自分でつくってみたらと言われたのがきっかけ。
自分がほしいもの、使いたいものをつくって、実際に使ってみる。
そういうところからアイデアが浮かぶような気がします。
— 木村肇

アーツ&クラフツ商会は、今回肇さんが考案したあるものに注目。
その商品をオーダーすることにした。
それは、備前焼の水出しコーヒー器具である。

丸い備前焼から、少しずつ滴り落ちる水……。
その貴重な一滴が、コーヒーの味わいを豊かにする。

実はこのアイテム、ある偶然から生まれたのだとか。

丸い一輪挿しをつくったときに、底から水が漏れていたんです。
そのぽたぽたと下たる滴をみたときに、
あっ、とひらめいたんですよ。
— 木村肇

肇さんの頭に浮かんだのは、
行きつけのカフェにあった水出しのコーヒーの器具。
そこからヒントを得て、備前焼の底にも同じように、
滴を落とすための1ミリほどの穴をあけてみた。

だいたい1秒から2秒に1回、水が滴り落ちるように。
でもその加減は焼いてみて、
実際に水を入れてみないとわかりません。
そこが大変でしたね。
— 木村肇

備前焼の器具でじっくりと抽出する水だしコーヒー。
朝の一杯が、愛おしくなるはずだ。
目にも舌にも美味しい、これぞまさに備前焼のニュークラフトである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.015 備前焼の水出しコーヒー器具

ダイジェスト動画

放送第15回:備前焼の水出しコーヒー器具

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