セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第18回 麗しき輪島塗のブックカバー

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食卓を華やかに彩る日本を代表する漆器、輪島塗。
そのしっとりと艶やかな肌をもつ器は、見た目からは想像もつかないほどに堅牢だ。
日本が誇る輪島塗をいつも手元に――そんな願いを実現したのが、今回のニュークラフツ。
輪島塗のブックカバーである。

輪島塗の伝統

茶碗に用いられる漆器
輪島
塗師屋

塗師屋が広めた輪島塗の魅力

そもそも漆器とは、主に木などの素地に漆の樹液を塗り重ねてつくる
工芸品のことであり、輪島塗は日本を代表する漆器である。

日本をはじめとしたアジアのモンスーン地域に生息する漆の樹液は、
世界でも珍しい特殊な天然樹脂。
古来、人びとはこの樹液を採集してきた。
1本の木から採れる総量はわずか200gと大変な貴重なもの。
樹液を採った木は切って成長を待つ。
再び漆が採れるのは15年後のことである。

そんな特殊で貴重な漆は、日本では縄文時代初期には
すでに塗料として使われており、約9000年前の墓からは、
遺体の衣服や装身具に付着した赤い顔料を混ぜたものが発見されている。
縄文中期には呪術者の腕輪や櫛、
祭壇に供える器などに用いられていたという。
触るとかぶれてしまうことから、漆には呪力があると、
当時の人びとは信じていたのだ。

漆器が日常生活の道具や献上品として広く普及したのは12世紀ごろ。
江戸時代には、全国各地で漆器づくりが盛んに。
なかでも隆盛を極めたのが、能登半島の北端に位置する輪島だ。

輪島には、自作の製品を自ら全国に売り歩く「塗師屋(ぬしや)」が
存在し、彼らは問屋を介すことなく直接顧客の元へ出向き、
要望を聞いて製品づくりを行ったため、絶大な信頼を得ていった。
全国を旅して見聞を広めた塗師屋は、顧客から「輪島様」と呼ばれ、
文人墨客の扱いを受けた。
こうして輪島塗は文化産業として発展、
漆器の代名詞的存在となったのだ。

輪島塗の技術

木地固め(きじがため)
漆風呂
惣身付け(そうみつけ)
研ぐ場所によって砥石を変える繊細な作業
刷毛目がきれいにそろうように塗る職人の技
上塗り(うわぬり)
椀の内側を塗って完成

堅牢さと、美しさの秘密

幾重にも塗り重ねるため、膨大な手間暇がかかる輪島塗。
その技を見るべく、木製漆器の生産量日本一を誇る
石川県輪島市に一軒の工房を訪ねた。

工房の師匠は、漆芸家の小森邦衞(くにえ)さん。
「髹漆(きゅうしつ)」、すなわち漆塗りの人間国宝だ。
網代と曲げ輪を組み合わせた素地に漆を塗り重ね、
今までにない新たな造形と、漆本来の美しさを追求する。
今回、小森さんに師事する工房の皆さんに、
飯椀の制作工程を見せていただいた。

まずは「木地固め(きじがため)」。
生漆(きうるし)と呼ばれる、漆の樹液を濾過したものを、
馬の毛の刷毛でトチの木地にすり込むよう塗る。
木に漆を吸い込ませ固めることで、椀の変形を防ぐのだ。

木地が吸い込まなかった漆を拭き取り1日かけて乾燥させる。
乾かすといっても、漆は水分を吸うことで固まる性質をもっているため、
湿度と温度が一定に保たれた漆風呂へ。

漆が乾いたら「布着せ」。
生漆に米糊を混ぜあわせた糊漆(のりうるし)を
接着剤として麻布(あさぬの)を貼り、飯椀の縁など、
木地が薄く壊れやすい部分を補強する。

糊漆が乾いたら、
補強を必要とする部分以外の布をギリギリまで削ってはがす。
さらに砥石で摺って布目を滑らかに。

続いては「惣身付け(そうみつけ)」。
おがくずを蒸し焼きにして砕いた惣身粉(そうみこ)と呼ばれるものを
生漆、米糊と混ぜ合わせ、布を着せた部分と、
木地の段差を無くすよう、ヘラで塗る。

ここで輪島塗の特徴のひとつである「地の粉(じのこ)」が登場する。
地の粉とは、輪島の小峰山(こみねやま)から出る珪藻土を練り固めて
天日に干し、蒸し焼きにして細かく砕いたもの。
これを生漆と米糊と混ぜ合わせ器に塗ることで、さらに堅牢に。

工程はまだまだある。
続いては、形の異なる7つの砥石を使いわけ、椀全体を研ぐ「地研ぎ」。
研ぐ場所によって砥石を変える繊細な作業だ。
作業中の工房には、音楽はもちろん、私語もいっさいない。

仕事に集中することが大事。
それに一人ひとりの音によって各人の仕事の進捗状況や、
腕の上達具合をみているんです。
ー 小森邦衞

人間国宝の華麗なる技

作業はようやく中盤へ。
続いては、精製した漆に鉄を混ぜ化学反応させた黒漆を紙で漉し、
なめらかな状態にして塗る「中塗り」。
刷毛目がきれいにそろうように塗るのが職人の技。
刷毛を持つ手だけでなく、椀を持つ手も同時に動かしていく。

中塗りを2度重ねたあとは「拭き上げ」。
駿河炭で研ぐ。目では確認できない凹凸をなくし、
きめを整え、仕上げの「上塗り」に備える。
塗るのと同じくらい重要な工程だ。

そしていよいよ仕上げの「上塗り(うわぬり)」である。
上塗りにホコリは厳禁。
小森さんはナイロンのジャンパーに着替え、靴下も脱ぎ、
一人別の部屋へ移動して作業をはじめる。

上塗りをする刷毛の運びは規則正しく、
極限まで無駄を省いた小森さんの動作には、
漆の由来ともされる「麗しい」という言葉通りに、
まるで茶道の所作のごとく洗練された美しさがある。

私は、上塗りの後、あえて磨き上げずに仕上げます。
これは“塗立(ぬりたて)”といって、
漆本来の艶を表現するための技法なのです。
ー 小森邦衞

塗り終えると、すぐに漆風呂へ。
1日以上乾かしたら、椀の内側を塗って完成。
木地固めから半年、塗っては研いでを繰り返すことで、
この艶と堅牢な肌は生まれるのだ。

一度途絶えた技術を復元するのはとても難しい。
漆の語源ともされる麗しさが伝わるような漆器を
きちんと守って伝えていきたい。
ー 小森邦衞

輪島塗 × ブックカバー

竹を網代編みしていく
完成品
嬉しい栞付き

使うほどに愛着が増すニュークラフツ

輪島では「漆器は職人がつくり、使う人が育てる」
と言われるように、使えば使うほどに、輪島塗は「使い艶」と呼ばれる
深く美しい艶を発するようになる。
それは、漆を幾重にも塗り重ねているからこそ生まれる美しさである。
そんな工芸品を、
できればつねに側に置いておきたくなるのが人情というもの。
今回、ニューアイテムづくりを依頼したのは、
人間国宝の小森邦衞さんだ。

竹を編んだ網代に漆を塗り上げる独自の作風を
確立した小森さんが使う素地は、もちろん竹。
煮沸して油分を抜いた竹を厚さ0.2ミリに削いでいく。
続いてそれを、2ミリ幅に設定した小刀の隙間に通し、幅を整える。

竹ヒゴができたら網代編み。
素地を堅牢にするため、隙間ができないよう丁寧に編み込んでいく。

竹はかつて定規にも使われていたほど、
伸び縮みの少ない素材です。
そんな竹に、さらに漆を塗るのですから、
どんな環境でも歪みません。それに軽いんです。
ー 小森邦衞

小森さんは下地を終え、中塗りへ。
弟子も仕事を忘れ師匠の手元を見つめるなか、仕上げにかかる。
人間国宝の手から、一体どんなニューアイテムが生まれるのだろうか。

「今回は面白い仕事をさせてもらいました」と語る小森さん。
完成したのは、輪島塗のブックカバー。
丁寧に編んだ網代に、
黒と溜め色の漆が美しく塗り上げられた気品あふれる逸品だ。
さらに、カバーの後ろには漆塗りの栞が。
しかも、リバーシブル。
大切な本をやさしく包んでくれるニューアイテムだ。
本を開き、そして閉じる。
その行為の数だけ、味わいとともに愛着が増すにちがいない。
いつも側において楽しめる、
これぞまさに輪島塗のニュークラフツである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.018 輪島塗のブックカバー

ダイジェスト動画

放送第18回:輪島塗のブックカバー

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