セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第21回 さりげなく粋な伊勢型紙のキーカバー

TOP > 作品アーカイブ > 第21回 さりげなく粋な伊勢型紙のキーカバー
江戸小紋などの型染に用いられる三重の伝統工芸「伊勢型紙」。
型彫り職人の精緻な技とデザインが込められた型紙は、“染色のための用具”以上の存在感を放つ。
伊勢型紙の繊細な手技から生まれたニュークラフツは、小粋な伊勢型紙のキーカバーである。

伊勢型紙の伝統

三重県鈴鹿市白子(しろこ)
独特の模様染め――小紋(こもん)
国の重要無形文化財に指定されている

江戸庶民のおしゃれを支えた伊勢型紙

遠目には無地のようにみえるが、近づいて目を凝らして見ると、
とても細かい柄が施されているのがわかる
独特の模様染め――小紋(こもん)。
この柄は、型紙によって染められており、
その最高峰の技術を誇るのが、
三重の伝統工芸「伊勢型紙(いせかたがみ)」だ。
そのおよそ9割は、三重県鈴鹿市白子(しろこ)でつくられている。

型を用いた染色法が流行したのは江戸時代のこと。
武士の裃(かみしも)の柄に、
小紋が使われるようになったのがそのきっかけである。
諸大名のなかには、特定の柄を専有し、
他の藩に使用を禁ずる者までいたという。
藩ごとに定められた柄は「留め柄(とめがら)」といわれ、
なかでも徳川家の「御召し十(おめしじゅう)」、 島津家の「大小あられ」などが有名だ。

江戸時代後期になると、小紋は一般の町人にも普及。
幕府が派手な色や柄を厳しく取り締まるなか、
遠目には無地に見える小紋は、
粋な江戸っ子たちにとって最先端のおしゃれアイテムだった。

当時、白子の型紙商人は、紀州藩からさまざまな特権が与えられ、
手厚い保護を受けながら全国を行商。
さらに、彫りの技術の流出を徹底して防いだ結果、
市場をほぼ独占することに成功した。
そして現在まで連綿と受け継がれてきた伊勢型紙の技術は、
1955年に国の重要無形文化財に指定された。

伊勢型紙の技術

柿渋
菜切り包丁で渋かすなどを取り除く西田二郎さん
完成した型地紙
型彫り師の六谷康英さん
掘る柄に合わせてつくられた彫刻刀
伊勢型紙専用の作業台「当て場」
彫刻
完成した「花鳥風月」の型紙
型付け
完成品

約50日を要する型地紙づくり

伊勢型紙の繊細な技を、工程を追いながら紹介しよう。

まずは伊勢型紙を彫る専用の紙、型地紙(かたじがみ)づくりから。
型地紙には、主に手透きの美濃和紙が用いられている。

3枚の和紙を、繊維の目が縦、横、縦と交互になるように重ね、
そこに数年寝かせた柿渋を塗り、貼り合わせる。
柿渋に含まれる柿タンニンの作用により、和紙の繊維が引き締まり、
和紙本来よりも硬くなって彫りやすくなるのだという。
紙全体に柿渋が浸透するよう2、3日寝かせた後、
その紙を板に張りつけ、天日で4時間ほど乾燥。

次の工程で型地紙の伝統工芸士、西田二郎さんが取り出したのは、
野菜を切るための菜切り包丁(なきりぼうちょう)だ。
包丁の刃を紙に垂直にあて、その上を払うようにすべらせる。

ほこりや、渋かすなどを取り除いてます。
型屋さんが、彫りやすいように。
異物があると、小刀が折れたりしますので
これは重要な作業のひとつです。
ー 西田二郎

続いて、室と呼ばれる燻煙室(くんえんしつ)で
紙を10日間ほど燻(いぶ)す。
紙の強度を高め、より変形しにくくするためだ。
その後、再び柿渋をつけるなどして、およそ50日をかけて
ようやく型地紙は完成する。

道具へのこだわりが生む一流の手仕事

さて、ここからが三重の伝統工芸「伊勢型紙」の真骨頂である型彫りだ。
貴重な技を披露してくれたのは、
重要無形文化財保持団体に認定されている伊勢型紙技術保存会の会長、
六谷泰英(ろくたにやすひで)さん。
「鮫(さめ)」「行儀(ぎょうぎ)」「通(とお)し」と呼ばれる
小紋の代表的な柄を生み出す錐彫り(きりぼり)の
型彫り師(かたぼりし)だ。

錐彫りは小さな穴を連ねて柄を構成する技法である。
細かいものでは、一寸(約3.03cm)四方に
なんと1000もの穴が彫られることも。

この道53年の六谷さんに見せていただいたのは、
「花鳥風月」の文字を文様化した型紙の制作工程だ。

型紙づくりは、彫る柄に合わせた彫刻刀づくりからはじまる。

まず薄い鋼(はがね)の板金(ばんきん)を、
金(かな)バサミで細く切り、
それを溝金(みぞがね)という専用の型盤にのせ、
ピアノ線をあてながら金槌で叩き、半円形の刃先にする。

焼き入れした刃先を、長さ15cmほどの
桜や竹の柄(え)に取りつけて固定。
当然、刃は薄くすればするほど切れ味がよくなるが、
それだけもろくなり、折れやすくなってしまうため、
見た目はもちろん、指先の感覚などを頼りに、
絶妙な切れ味に仕上げていく。
「自分に合った刃を仕上げられるようになって、
はじめて一流の職人」になるのだと、六谷さんは言う。

作業をするのは、型紙を彫りやすいよう傾斜を付けた、
「当て場」と呼ばれる伊勢型紙専用の作業台。
一度の作業で同じ柄の型紙を複数つくるために、
型地紙は6枚ほど重ねて彫るのが一般的だ。

和紙のコヨリで、重ねた型地紙が動かないよう、
数カ所をしっかりと固定し、図案の下絵を、
墨を付けた刷毛を本紙の上からこすって転写する。

型紙に空いた無数の穴が描く伝統の美

下絵を写し終えたら、ようやく彫刻の作業へ。

紙に対して垂直に彫刻刀を構え、左手の親指で柄(え)を押さえながら
中指と人差し指を右に回転させ、穴をあけていく。
一つの型を仕上げるのになんと8万もの穴を開けることも。

この“花鳥風月”の場合は、一本の錐で仕上げます。
着物になったときに、なんとなく文字があるなあ、というくらいに
デザイン化されたものが一番美しいんです。
ー 六谷康英

道具づくりから半月(はんつき)が経過し、ようやく型紙が完成した。
無数の穴の連なりが描く繊細な文様は圧巻である。

職人が彫るとまっすぐに彫っていてもうねりがでる。
それが味であり手仕事の証。染色したときに独自の温かさが出る。
それが魅力ですね。
ー 六谷康英

彫り上げられた無数の花鳥風月の文字。これだけでもみごとだが、
やはり伊勢型紙は染色のための用具である。六谷さんは言う。
「伊勢型紙は染色してもらって、はじめて生きるもの。
東京で染色すると江戸小紋となり、伊勢型紙という名前はなくなります。
いわば縁の下の力持ちです」。

今回特別に、六谷さんが彫り上げた型紙を使って、
染色の伝統工芸士 石塚幸生さんに、着物と同じ絹の生地(きじ)で
「試し染め」をしていただいた。

まずは「型付け」という作業。
板に張った生地の上に水分を含ませた型紙をのせ、
着色を防ぐための糊(のり)を塗る。
こうすることで生地を染め上げた際、
糊が付いている部分だけが白く模様として残るのだ。

糊が乾いたら、地色を染める「しごき」の作業へ。
染料を混ぜた糊を、ヘラで紙一枚ほどの厚さを保ちながらムラなく塗り、
色がしっかり定着するよう、90度の蒸し箱でおよそ30分間蒸し上げる。
その後、糊を水で洗い流すと……。
六谷さんが彫り上げた花鳥風月の柄が浮かび上がった。

職人それぞれの手仕事が、伝統の美をつないでいく。

伊勢型紙 × キーカバー

ひと彫りと彫りニューアイテムに命を吹き込む
鍵と鍵穴のオリジナルデザイン
紺と黄色の2色

染め職人も驚く小粋なニュークラフツ

今回、ニューアイテムづくりにチャレンジするのは六谷さん。
「新しいデザインで遊び心があるし、面白いと思う。
しゃれたものができるんじゃないかな」と、
依頼の内容を聞いた六谷さん。

伊勢型紙職人、六谷さんのひと彫りひと彫りが
ニューアイテムに命を吹き込んでいく。

仕上がりをイメージしながら彫らないと、いいものはできません。
型紙は染めの命なんです。
染屋さんから“上手に彫刻できましたなあ”、と言われるが、
一番嬉しいことやな
ー 六谷康英

染色の伝統工芸士、石塚幸生さんに、新製品について聞いてみると、
「従来の江戸小紋にないようないモダンさがあって、
洒落ていていいですよね」と感心した様子。

完成した伊勢型紙のニュークラフツは、キーカバー。
鍵と鍵穴のデザインはオリジナルだ。
職人が錐彫りと手染めで丁寧に仕上げた逸品である。

色は紺と黄色の2色。
ひもを引けばキーカバーに鍵がすっぽり納まるので、
置いたときの金属のジャラジャラ音も気にならない。
さり気なくあしらわれた小紋が実に粋な、
これぞまさに、伊勢型紙のニュークラフツである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.021 さりげなく粋な伊勢型紙のキーカバー

ダイジェスト動画

放送第21回:さりげなく粋な伊勢型紙のキーカバー

作品アーカイブに戻る