セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第22回 上質の日常へと誘う蒔絵のドアハンドル

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漆に金粉を蒔いて模様を生み出す「蒔絵」は日本独自に発達した技法であり、その歴史は1000年以上。
美への飽くなき追求が、今もその技を進化させている。
そんな伝統の技を駆使してつくられたのは、リビング空間に華やぎをもたらし、触れて見て心が豊かになる「蒔絵のドアハンドル」だ。

蒔絵の伝統

日本の芸術ー蒔絵(まきえ)
装飾前の漆の漆器
金粉を蒔(ま)いて模様にする

西洋を魅了した漆黒と黄金の美

フランス王妃マリー・アントワネットが愛した
日本の芸術―蒔絵(まきえ)。
漆黒の肌に煌めく金の模様や、デザイン性豊かで華麗な装飾が、
王妃の心を虜にしたのだ。

ゴージャスでいて、品格がある。
この輝きはどのようにして誕生したのだろうか。

日本をはじめ、アジアのモンスーン地帯に生息する漆。
その樹液は、空気中の水分を吸うと固まり、
酸にもアルカリにも溶けない性質をもつ。
この特性を活かして、9000年以上前から木などの素地に
漆を塗り重ねた丈夫な漆器がつくられるようになった。
やがてこれを装飾するための技法が誕生。そのひとつが蒔絵である。

蒔絵とは、細い筆を使って漆で絵を描き、その漆が固まらないうちに、
金粉を蒔(ま)いて模様にするというもの。
この特殊な絵画表現は世界中の人びとを魅了。
漆器はやがて“ジャパン”と呼ばれ日本を代表する工芸となった。

蒔絵という言葉が歴史上はじめて登場したのは、
平安初期の「竹取物語」。
そこには、かぐや姫のために立派な建物をつくり、
その壁に漆を塗り、蒔絵を施した、とある。
同じ平安期に建立された中尊寺金色堂の輝きも、実は蒔絵によるもの。

国宝「浮線綾螺鈿蒔絵手箱(ふせんりょうらでんまきえてばこ)」
(サントリー美術館 蔵)は、時の権力者、北条政子が所有したとされる
鎌倉時代の名品である。
たとえばこの名品のように、貴重な金や漆を使用し、
その制作には膨大な手間を要する蒔絵は、
寺社や貴族など特権階級のためのものだった。
しかし桃山時代になると、力をつけた武士たちも
こぞって蒔絵を手にすることになり需要が拡大。
その類い稀な工芸品は、当時日本にやってきた西洋人を魅了し、
王侯貴族は、冨と権力の象徴として、競ってそれを買い集めたという。

その後、日本が鎖国時代にあっても、海を渡り続けた蒔絵。
“ジャパン”の輝きは途絶えることなく、今に至るのである。

蒔絵の技術

蒔絵の人間国宝ー室瀬和美(むろせかずみ)さん
3年をかけ準備した蒔絵の下地
黒漆(くろうるし)で貝を貼るー螺鈿(らでん)
金の板から切り出した模様を漆で貼るー切金(きりかね)
粉筒(ふんづつ)を使い金粉を蒔く
細かい線模様を入れるー付け描(が)き
完成品

漆の性質を活かした職人技

その素晴らしさは、見た目の美しさだけではない。
一見儚げにみえる蒔絵だが、実は大変丈夫。
何百年という時を経ても、この美しい輝きが保たれるよう、
そこにはとんでもない手技が隠されているのだ。

その技を拝見すべく訪ねたのは、東京目白に工房を構える漆芸家、
室瀬和美(むろせかずみ)さん。
斬新なデザインと卓越した技で漆芸の世界に新風を吹き込む
蒔絵の人間国宝だ。

見せていただいたのは、個展に出品するという、
茶入(ちゃいれ)の一種である中次(なかつぎ)の制作工程である。

室瀬さんが取り出したのは蒔絵の下地。
地道に漆を塗り重ね、3年をかけ準備したもの。

時間をかけて塗りの仕事をするのが鉄則。
何十年、何百年とそのままの美しさを保つ作品をつくるためには、
2〜3年などとるに足らない時間なのです。
ー 室瀬和美

装飾は螺鈿(らでん)から。
まずは貝を砥石で擦り、煮るなどして、輝く部分を薄く剥がし、
それを水に浸して柔らかくしたら、0.4ミリ幅に切りそろえる。
次に黒漆(くろうるし)で、貝を貼る部分に線を引き、
その上に貝を乗せる。

ここで、せっかくきれいに乗せた貝を、
短く切断し隣に移動させる室瀬さん。その理由をこう語る。

貝を一本そのまま貼ってしまうと、
見た目が単調になってしまいます。
輝く場所を選びながら、そして線の長さを少しずつ変えながら、
一本の線のなかで、光のニュアンスを変えたいからです。
ー 室瀬和美

漆が乾き貝が固まったら、次は切金(きりかね)。
金の板から切り出した模様を漆で貼るこの作業のポイントは、
模様を貼るタイミング。金を乗せると、漆は空気と遮断され、
水分を取り込むことができず、それ以上、乾かなくなってしまう。
そのため漆が固まるギリギリを狙うのだ。
タイミングさえ見極めれば、漆は何よりも強力な接着剤となる。

呼吸をもコントロールする熟練の技

そして、いよいよ蒔絵の作業である。

金粉を蒔く部分に、赤い顔料を加えた漆を塗る。
それは、塗り残しはもちろんのこと、わずかな筆ムラも見逃さないため。

金粉を蒔くときに使うのは粉筒(ふんづつ)。
軽くて丈夫な鶴の羽根を加工した道具だ。
想い通りのニュアンスを出すためにわずかに力加減を変えながら、
金粉を蒔く室瀬さん。このリズムが大切なのだと言う。

続いては、色漆(いろうるし)を使って金粉を定着させる
粉固め(ふんがため)。
1週間ほど乾かしたら、研ぎの作業。色の出方を見ながら、
慎重に金を研いでいく。

このあと、透き漆(すきうるし)で全体を塗り込み、
研ぎ出す作業を3度繰り返す。こうして漆を塗っては研ぐという作業を
繰り返すことで、しっとりとした質感と、品のある輝きが生まれるのだ。

こうして手間ひまをかけることで、
100年後、あるいは200年後の
未来の人にも喜んでもらえる作品になります。
とても幸せな仕事だと思います
ー 室瀬和美

研ぎ出しの次は付け描(が)き。
細い線模様を入れる。ここで使用するのは粘り気の強い堅い漆。
筆はネズミの背中の毛でできたものだ。

堅い漆を使うことによって、細くて背の高い線が書けます。
しかし、それゆえに思うように筆が動かず、ともすればすぐに線が
かすれてしまうことも。
筆先には呼吸や脈拍の影響が出てしまうので、
呼吸もできるだけゆっくりと、大きな変化がないように、
細心の注意を払います
ー 室瀬和美

乱れのない線模様は、熟練の技によって生まれるのだ。
最終工程の磨きを終え、ようやく完成。
最初の工程から実に約4カ月が経過。

手にとったときに気持ち良くて、心が豊かになる、
そういうものをつくりたい。
そして、それが人と人とをつなぐ
コミュニケーションツールになること。
それ以上の望みはありません。
ー 室瀬和美

蒔絵 × ドアハンドル

アイデアを練る
蒔絵を施す
完成したドアハンドル

触れて見て愛でる蒔絵のニュークラフツ

今回、ニュークラフツに挑むのは、
室瀬さんが設立した「目白漆學舎(うるしがくしゃ)」で
漆芸の制作と普及に励む若き漆芸家の皆さん。
そんな彼らに出されたお題は「ドアハンドル」である。

まず行われたのはデザイン会議。
ドアノブに吉祥紋を、あるいは毎日触るものだからこそ
飽きのこないデザインに……。
さまざまなアイデアが出され、ようやくデザインが決まると、制作開始。
金属のドアハンドルに漆を塗り、電気炉に入れて焼き付ける。
そのあと、黒漆を3回塗重ね、下地が完成。
蒔絵を施すのは室瀬智弥さん。

中心は太く、外に向かって細くなるように線を描くことで、
グラデーションにも奥行きが出ると思います。
ー 室瀬智弥

続いて丸く切り出した貝を、ドアハンドルの正面に漆で貼付け、
表情にアクセントをつける。
そして、塗りと研ぎを繰り返す。

作業をしているときと、実際に使うときとでは
見る角度がちがいます。
ドアノブに手をかけたときの角度を想像しながら、
魅力的な輝きになるように心がけました。
ー 室瀬祐

漆工芸、蒔絵の技を生かしたニュークラフツが、ついに完成した。

それは、家族が集うリビングを温かく、
そして豪華に彩る「蒔絵のドアハンドル」である。

美しく蒔かれた金粉が、
触れるたびにこぼれ落ちそうに見えるが、心配無用。
漆を幾重にも塗り重ねているので、金粉がとれてしまうことはない。

漆ならではのしっとりとした肌触り。
そして、蒔絵独特の控えめだが上品な輝き。
ドアノブに手をかけるたびに心が豊かになる、
これぞまさに蒔絵のニュークラフツである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.022 蒔絵のドアハンドル

ダイジェスト動画

放送第22回:蒔絵のドアハンドル

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