セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第23回 伝統美で包む津軽こぎん刺しのカメラケース

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津軽の厳しい自然に育まれた「津軽こぎん刺し」。
針と糸だけで紡がれる繊細で美しい幾何学模様には、冬の寒さをしのぐ知恵と工夫が隠されていた。
そんな津軽の伝統工芸のニュークラフツは「津軽こぎん刺しのカメラケース」。生活に根付した様の美が、日常を美しく彩る。

津軽こぎん刺しの伝統

江戸期のこぎん
こぎん刺しを施した農民の着物
工夫を凝らしたデザイン

冬の寒さをしのぐ知恵と工夫

津軽こぎん刺しは、青森県弘前市で生まれた伝統工芸である。
その起源は定かではないが、江戸時代に津軽の庶民生活を描いた文献に
こぎん刺しが記されていることから、
このころにはすでに生活にとけ込んでいたことが窺える。
しかしなぜ、この美しい幾何学模様をもつ工芸が
津軽で生まれたのだろうか?

津軽地方は、厳しい寒さのため綿花が育たず、
農民の着物は目の粗い麻の布でできていた。
しかし、雪国の冬は麻布の着物だけで過ごすにはあまりに寒い。

そこで、着物の補強と保温のために、布の折り目を糸で刺して埋める
こぎん刺しというアイディアが生まれたのだ。
ちなみに“こぎん”とは、「麻でつくった作業着のこと」
(弘前こぎん研究所代表の成田貞治さん)だそう。

農民の着物は、津軽藩からの倹約令により、
「着るものの布は麻、色は藍」と決められていた。
当時、麻布を織る作業は膨大な時間がかかっていたため、
着物は庶民にとって貴重なものだった。
そのため、こぎん刺しを施して、すり切れると、
その上から二重にも三重にも刺し綴り、大事に使われていたという。

その技術は津軽地方の農村の女性たちにより代々受け継がれて、
彼女たちはほかの人よりも素敵な刺し子をつくろうとデザインにも
工夫を凝らし、競うようにして美しい模様を生み出していった。
それらは現在、津軽こぎん刺しの基本的な模様となっている。

しかし、明治24年に東北本線が全線開通し、丈夫で温かな木綿の着物が
手に入るようになると、こぎん刺しは急速に衰退。
そんなこぎん刺しを救ったのは、民藝運動の父と呼ばれる
柳宗悦(やなぎむねよし)である。

彼は「醜いこぎんはない。1枚とてない」と、
津軽こぎん刺しを地方工芸の最たるものと絶賛。
昭和になって再評価されることに。
その伝統は古の技法や模様を生かし、
現代的なデザインを取り入れながら、今日まで受け継がれている。

津軽こぎん刺しの技術

紡いだ糸を織り機で織る
生地を裁断
こぎん刺しの継承に尽力する成田貞治さん
刺し子歴11年の成田ひろみさん
最初の一段「目立て」
玉止めをせず、そのまま糸を切る
完成品 「くるみから」

カタチを変え受け継がれる伝統

その精緻な技を見るべく訪れたのはこぎん刺しの故郷、
青森県弘前市の旧城下町にある
津軽こぎん刺しの工房「弘前こぎん研究所」だ。
瀟洒なこの建物は、日本の建築界をリードした前川国男が
昭和8年に設計したもの。
日本初のモダニズム建築としても知られている。
そんな歴史ある建物のなかで、津軽こぎん刺しはつくられている。

作業は、紡いだ麻の糸を織ることからはじまる。
職人が使用する織り機は昭和初期から使い続けているもの。
こぎん刺しを施すために麻の布は少し粗目に織る。

続いて、生地を作品のサイズに合わせて裁断。
一見簡単そうに見えるが、ここにも熟練の技が隠されている。
まずは、寸法をはかり、針で目印になる線をひき、
一気にハサミをいれる。ハサミさばきは実に正確。
ここで布が曲がると、繊細な幾何学模様にはならないからだ。

工房には現在約100名のお針子さんが在籍。
農業や主婦業などのかたわら、それぞれの技量や経験に合わせ、
設計図を元に布に糸を刺し、作品を仕上げていく。
彼女たちをまとめるのは、こぎん刺しの継承に尽力する成田貞治さん。

“伝承”を守りつつ、“伝統”を支えることが大切です。
こぎんは、藍色に白が昔ながらの基本の色ですが、
今はさまざまな色を使ったりしますし、本来の作業着以外にも
バッグや小物など多彩なアイテムをそろえています
ー 成田貞治

針と糸だけで紡ぐ美しき幾何学模様

「津軽こぎん刺し」の特徴は、一般的な刺繍とは異なり、
布地の横糸にそって縦糸の本数を数えながら刺していくこと。
1目、3目、5目と奇数の目数で刺すのがルール。
1段ごとに針目をずらして刺し綴ることで、
織物のように美しい幾何学模様が構成されるのだ。

ここでは、さしこの工程を紹介する。
デザインはクルミを半分に割った形に似ていることから
その名がついた「くるみから」。
教えてくれるのは、高校生のころからさしこをはじめ、
刺し子歴11年の成田ひろみさんだ。

図案をもとにまずは中心を決める。
さしこは、上下または左右対称のものが多く、
図案の中心を正確に決めることが重要なのだ。
針はつねに右から左に刺していく。

左端までいったら、裏返し、糸の引っ張りなどを修正。
そして、針から糸を抜くのだが、糸はそのまま。
今度は、反対側の糸を針に通し、
180度回転させて同じ数だけ刺していく。

こぎん刺しで重要なのは「目立て」といわれる最初の一段。
ここの出来不出来が、仕上がり具合を左右する。
2段目3段目と一段一段ずらしながら刺していく。

そしていよいよ仕上げ。
この仕上げの刺し方もまた、こぎん刺しならでは。
裏側にして、一段戻り、
縦糸を1目おきに、2〜3カ所すくって刺していく。
このとき、表面に糸が出ないようにするのがポイント。
通常、裁縫では糸を最後に玉止めするが、
こぎん刺しは糸を複雑に刺し合わせているため、
玉止めをしなくても、ほどけることはない。
そのまま、糸を切ってしまう。
これがこぎん刺しの美しさの理由のひとつである。

300年以上の歴史を誇る津軽こぎん刺し。
その変わるもの、変わらないものとは。

変えちゃいけないところは“手刺しである”ということ。
そして麻布に綿の糸という素材。これだけは守っています。
歴史的に残されたこぎんを正しく後の人に伝えることが
私の役目だと思っています。
ー 成田貞治

こうして美しい幾何学模様は、受け継がれているのだ。

津軽こぎん刺し × カメラケース

一刺し一刺し慎重に針を動かす
完成したカメラケース
グラデーションの刺し子

丈夫で美しいカメラケース

今回の依頼は津軽こぎん刺しの特性を活かしつつ、
なおかつおしゃれなもの。
そんな津軽こぎん刺しの新たなアイテムに挑戦するのは、
刺し子歴47年の三浦佐知子さん。
所長の成田さんとともに、頭を悩ませている。

「このニューアイテムは普通の袋ではありません。
しかも形が複雑。最新の注意を払ってつくらないと」
と語る成田さん。
いったいどんな、アイテムができあがるのか。
複雑な形の袋とは?

素材は、こぎん刺し本来の藍色の麻布。
三浦さんは、一刺し一刺し慎重に針を動かしていく。

完成したのは「津軽こぎん刺しのカメラケース」。
職人も納得の仕上がりだ。

大切なレンズ部分には補強も兼ねて、グラデーションの刺し子が。
カメラケースのふたの部分にも、おそろいの刺し子が施され、
大切なカメラが津軽が誇る伝統美に包まれた。

丈夫さと美しさを兼ね備えたカメラケース。
これぞ、まさに津軽こぎん刺しのニュークラフツだ。

アーツ&クラフツ商会 Lot.023 津軽こぎん刺しのカメラケース

ダイジェスト動画

放送第23回:津軽こぎん刺しのカメラケース

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