セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第24回 日常のひとこまに彩りを添える大阪浪華錫器のペーパーウェイト

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大坂の伝統工芸「大阪浪華錫器(おおさかなにわすずき)」の徳利(とっくり)は、昔から酒好きに愛されてきた逸品だ。
気品あふれる銀色の輝きは、すべて職人の手仕事によるもの。
そんな伝統の技を生かしたニュークラフツは、独特の質感を湛える大阪浪華錫器のペーパーウェイトである。

大阪浪華錫器の伝統

独特の輝きと手触りを持つ錫器
錫の銚子
気品溢れる銀色の輝き

文人に好まれた錫製の茶道具

ほかの金属にはない独特の輝きと手触りをもつ錫器を
日本人はいつから愛用していたのだろうか。

古くは弥生時代、すでに錫は青銅器の材料として使われていた。

大規模な環濠(かんごう)集落跡として知られる
佐賀県の吉野ヶ里遺跡(よしのがりいせき)から
高純度の錫の塊が出土したのだ。
古墳時代には、材料としてではなく、
錫だけを使った耳飾りがつくられていたという。

奈良時代になり、中国との交易を通して日本に錫製の器が伝来すると、
その加工技術が飛躍的に発展。
正倉院の宝物(ほうもつ)である錫製の薬壷(やっこ)には、
ロクロで挽いた跡がある。
当時すでに錫をロクロで挽く技術が存在していたとされている。

錫器は宮中や社寺など一部の特権階級で使われる貴重品で、
その主な用途は酒を注ぐことだった。
そのため15世紀ごろには、徳利のことを「錫」と呼んでいたらしい。

江戸時代になると錫器は一般の富裕層にも広まり、
「錫屋(すずや)」「錫師(すずし)」「錫挽(すずひき)」
などと呼ばれた京都の職人が活躍。花見などの物見遊山の際に、
大名や豪商が愛用した携帯用の豪華な重箱セットにも
錫製の徳利が多く用いられていた。

また、江戸時代中期、煎茶が流行すると中国からの輸入品、
いわゆる唐物(からもの)の茶道具が珍重されるように。
なかでも錫製のものが文人に好まれたことから、国内での生産が増加。
それにともない、流通の便の良い大阪でもつくられるようになった。
これが大阪浪華錫器のルーツとなっている。

大阪浪華錫器の技術

昔から酒好きに愛されてきた
江戸時代から伝わる錫器の技術を継承する工房
鋳型を外す
ロクロ挽き
下絵を描かず、そのまま筆を入れる
黒い色漆を刷毛で塗り、すぐに拭き取る
完成品

作業の肝は長年の経験と勘

「大阪浪華錫器(おおさかなにわすずき)」は、
熱伝導率が高いためすぐに温まり、酒の味もまろやかになるとされ、
昔から酒好きに愛されてきた伝統工芸だ。
錫器(すずき)とは文字通り錫の器のこと。
比較的柔らかい金属であるため、機械による加工が難しく
製作はすべて手作業である。

その職人技を知るために訪れたのは、
大阪市内の住宅地にある大阪錫器(おおさかすずき)。
江戸時代から伝わる錫器の技術を継承する工房だ。
職人の数は18人。
日本の錫製品のおよそ6割がこの工房でつくられている。
代表の今井達昌(たつまさ)さんはこの道34年。
大阪浪華錫器の第一人者である。

お正月などに使用される銚子を例に制作工程を紹介する。

まずは、純度97%の錫の地金(じがね)を
火にかけてドロドロに溶かす。
用意された3つの鋳型が十分に温まったところで、
錫を鋳口(いぐち)とよばれる隙間から流し込む。
職人はただ流し入れているだけ―いかにも簡単そうに見えるが、
錫を杓(しゃく)ですくい流し込むまでの時間を数秒単位で調整し、
鋳型と錫の温度のバランスに気を配るなど、
「鋳込み」は熟練の技を要する作業である。

鋳型を外すタイミングも重要で、これは長年の経験と勘だけが頼り。

固まってから開ければよい型や、
固まった瞬間に開けないといけないもの、
あるいは固まる直前に開けないといけないものなど、
型によってクセがあり、開けるタイミングはすべて異なります
― 今井達昌

鋳型を外したら水を付けて錫を収縮させてから取り出し、
「ロクロ挽き」。
鋳込みでできた錫の鋳物を、ロクロで挽いて形を整える。
鋳物がブレないようロクロの中心にセットし、
カンナを用いて、表面を少しずつ削っていく。
その深さは、わずか0.5ミリ。集中力を要する繊細な作業だ。

職人の繊細な手仕事が光る逸品

次は、十分に熱した焼きゴテで、パーツを溶接する「焼き合わせ」。
焼き合わせた部分は再びロクロで削り、継ぎ目を目立たなくした後に、
砥粉(とのこ)をつけたサラシで鏡面のように磨き上げ、
さらに水をつけた指で曇りをとる。

続いては「ロウ付け」。
注口(そそぎぐち)や持ち手の取り付け部品など細かいパーツを、
錫よりも低い温度で溶けるロウ材と呼ばれる合金で溶接。
バーナーの火を調節しながら、接合部分が目立たないように溶接する。

「絵付け」では、職人は下絵を描かず、そのまま筆を入れる。

下絵を描くと、その通りに描こうとするので、
余計に時間がかかります。
自分の気持ちを入れて、一気に描き上げます
ー 佐々木義隆

絵付けを終えたら、希釈した硝酸の液に浸ける「クサラシ」。
硝酸によって錫を腐食させ、銚子の表面に梨子地(なしじ)とよばれる
細かな凹凸をつくる作業だ。
30分ほど硝酸に浸け、有機溶剤で塗料を拭き取ると、
絵付けしたところだけが浮き彫りされたように盛り上がり、
錫独特の輝きを放つ柄に。そのほかの部分は、梨子地の肌に変化する。

梨子地が浮かんだ器全体に、今度は生漆(きうるし)と
松煙(しょうえん=松を燃やしたすす)を混ぜた黒い色漆を刷毛で塗る。
塗り終えるとすぐに色漆を拭き取る。
こうすることで梨子地の凹んだところにだけ色漆が残り、
絶妙な風合いが生まれるのだ。

その後丸一日、湿度を一定にした場所で
漆を乾燥させたものを再びロクロへ。
余分な色漆が拭き取られ、さらに磨かれると、
器は燻したような独自の輝きを放ちはじめる。

最後に、持ち手の部分を取り付けて完成。

金属ではありますが、手に馴染む風合いが錫器の魅力のひとつ。
人が手に持って使うものですから、人の手でつくったほうがいい。
そう思いますね
ー 今井達昌

大阪浪華錫器 × ペーパーウェイト

錫の塊を旋盤で削る
完成したペーパーウェイト
ティッシュディスペンサーにもなる

気品あふれる錫器のニュークラフツ

今回、アーツ&クラフツ商会がニュークラフツづくりを依頼したのは、
今井達昌さん。
江戸時代から伝わる伝統の技を駆使し、
つねに時代のニーズにあった新しい錫器をつくり続ける
大阪浪華錫器の第一人者である。

さっそく制作にとりかかり、錫の塊を旋盤で削りはじめる今井さん。
図面を確認しながら、慎重に作業を続ける。
作業を止め手にしたものを眺めると、「おもろない」と一言。
納得のいく仕上がりになるまで、一からやり直し。そして……。

仕上げのロクロ挽きを終え、ニューアイテムがついに完成した。

それは「大阪浪華錫器のペーパーウェイト」だ。
錫独特の気品あるつやと輝きを生かすため、
装飾をあえてシンプルなものに。
注目すべきは、中央に空いた穴。
ティッシュの束の上に置けば、
スタイリッシュなティッシュディスペンサーになる。
適度な重さのペーパーウェイトが重しとなり、
この穴からティッシュを一枚ずつ取り出せるのだ。

日常の何気ないひとこまに彩りを添える、
これぞまさに大阪浪華錫器のニュークラフツである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.024 大阪浪華錫器のペーパーウェイト

ダイジェスト動画

放送第24回:大阪浪華錫器のペーパーウェイト

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