セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第25回 古の技を今に伝える熊野筆のパソコンクリーナー

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多くの書家から愛される筆――広島の伝統工芸「熊野筆」。
動物の毛を組み合わせ、柔らかいものから硬いものまで異なる書き味を生み出す美しい筆は、繊細な伝統技の賜物。
古より伝わる手技を活かした熊野筆のニュークラフツ、パソコンクリーナーである。

熊野筆の伝統

多くの書家から愛される熊野筆
筆作りの技術が熊野に根付いた
ブランドとして確立された熊野筆

江戸時代より受け継がれし伝統の技術

多くの書家から愛される筆がある。広島の伝統工芸「熊野筆」だ。

筆の起源は、3500年前の古代中国にさかのぼる。
その後、度量衡(どりょうこう)や文字を統一した
秦(しん)の始皇帝の時代に、筆・硯・紙・墨のいわゆる
「文房四宝(ぶんぼうしほう)」が発展し、
筆づくりは飛躍的に進歩した。

筆が日本に入ってきたのは5世紀のこと。
書の名人であった空海は、唐の製法で4本の筆をつくらせ、
嵯峨天皇に献上。
このころより、関東から九州まで、
各地で筆づくりが行われるようになった。

各地に寺子屋ができ、庶民が気軽に筆を使いはじめた江戸時代になると、
さらに需要が増し、下級武士の内職としても
筆づくりは盛んに行われるように。

一方、耕地にも恵まれなかった広島の熊野では、
男手の多くは農閑期を利用して、
和歌山や奈良などに出稼ぎに行っていた。
そこで稼いだお金で筆や墨を買い入れ、
帰る道すがらそれを売りさばくという、
効率の良い商いを行っていたという。

そんななか、熊野を治めていた浅野藩は、工芸を推奨。
筆や墨づくりの職人を城下に呼び寄せた。
1846年ごろには藩の御用筆司(ふでし)や、
藩外に筆づくりを学びに行く者が現れ、
筆づくりの技術が熊野に根付き、この地の名産となったのだ。

現在では、画筆や化粧筆など時代のニーズにあった商品を生産。
「熊野筆」はブランドとして確立されたのである。

熊野筆の技術

毛の選別をする「選毛(せんもう)」
「火のし」でプレスする
逆毛や質の悪い毛を取りのぞいていく
5種類の毛
濡らした麻糸で毛の根元を結び、焼きゴテで焼く
完成した穂首を軸にはめる
完成品

毛先に現れる良質な筆の証

熊野筆の故郷、広島県安芸郡熊野町(あきぐんくまのちょう)。
四方を山に囲まれたこの地で、熊野筆はつくられている。

その美しさの秘密を解くために訪れたのは、
明治40年創業の実森誠実堂(さねもりせいじつどう)。
三代目の実森康宏(さねもり・やすひろ)さんはこの道47年の職人だ。

実森さんには毛筆づくりの工程を見せていただいた。

最初の工程は、毛の選別をする「選毛(せんもう)」だ。
職人が見つめるのは、素材となる毛の先。
毛先が尖り、透明に見えるのが良質な毛とされる。

筆には各部位に名称があり、穂首(ほくび)はさらに5つにわけられる。
なかでも重要なのは、先端の命毛(いのちげ)と呼ばれる部分。
その善し悪しが書の表情を左右するのだ。
選毛が一人前にできるようになるには10年以上かかるという。

続いて、選毛した毛に灰を交ぜ、
およそ120度に温めた「火のし」とよばれるアイロンでプレスをする。
その後すぐ、「火のし」した毛を素早く鹿革で巻き、
毛を折らないように注意しながら丁寧に揉む。
灰をかけ、温めてから揉むことで毛にふくまれる油分を取り除くことで、
筆はきれいにまっすぐになる。

繊細な手つきでリズミカルに
「手板(ていた)」と呼ばれる道具を使って、
毛先をそろえる実森さん。毛が柔らかいため難しい作業だが、
そんなことを感じさせない熟達した職人の流れるような手さばきは
実にみごとである。

毛先をそろえたら、「半差し(はんさし)」と呼ばれる小刀の背を使い、
逆毛や質の悪い毛を取りのぞいていく。
たとえるなら、キューティクルが壊れた毛に
半差しを引っ掛ける感じだとか。実に繊細な作業である。

絶妙なる書き味を生む熟達の技

筆に使われるのは、生まれてから一度もカットされていない毛。
毛先は切らず、長さは根元で調整する。

今回使用するのは山羊のほかに、
力強く荒々しい「かすれ」が出やすい馬、
筆の力や形を整える鹿など、5種類の毛。
異なる毛を混ぜ合わせる塩梅が職人の腕の見せどころ。

さまざまな種類の毛を、筆のどの部分に使い、
どう組み合わせるかで、筆の書き味は変わってきます。
ー 実森康宏

毛を組み合わせた「くれ」とよばれる塊にしたら、
それを水につけ作業しやすい大きさに分け、
良質なものだけになるよう余計な毛を取り除く。

根元に糊を付けた毛を、筆一本分になるように選り分け、
筒に入れて形を整えたら、手の腹で逆毛やすれ毛がないかを最終確認。
これを天日で2日ほど乾燥させると「芯」の完成だ。

続いて選毛、寸切りなどを済ませた馬の毛を芯に巻く。
こうしてできあがるのが「衣毛(ころもげ)」と呼ばれるもの。
見栄えを良くするための効果もある。
衣毛は筆の命となる命毛にかからないようにずらして
巻くのがポイントだ。

穂首ができたら濡らした麻糸で毛の根元を結び、焼きゴテで焼く。
こうすることで毛に含まれる蛋白質が溶けて固まるのだ。
ようやく完成した穂首を、今度は専門の職人がつくった軸にはめる。

続いて、実森さんが取り出したのは「ふのり」。
ふのりは汚れを取り除き、毛に艶を与える効果があるのだとか。

櫛通しをしたら、穂首についた余分なのりを取り除き、形を整える。

ここからさらに、室内で2日ほど乾燥させて、ようやく完成。
職人の技が込められた至極の1本。完成まで実に1カ月以上。
実に根気のいる作業である。

輸入ものの筆の影響で、職人さんも少なくなっていますが、
私はこの伝統を途絶えさせたくありません。
若い世代に関心をもってもらうのが、一番嬉しいこと。
ー 実森康宏

熊野筆 × パソコンクリーナー

形と質を整える
完成したパソコンクリーナー
柔らかな良質の毛

繊細な技が光る熊野筆のニュークラフツ

今回、熊野筆のニュークラフツづくりにチャレンジしていただいたのは、
江戸時代から続く伝統の技を受け継ぐベテラン筆司、実森さん。
アーツ&クラフツ商会からのオーダーは
「男女関係無く使えて、日常に密着したアイテム」というもの。

この依頼を聞き、「これなら1種類の毛でできそうですね。
とんがりすぎてもダメだし、太すぎてもダメ。
そのあたりのバランスを考えてつくってみます」と、
さっそく山羊の毛の選毛をはじめた実森さん。
何かを思いついたようだ。

さすがは熊野筆の達人。
職人らしい確かな手さばきで、作業は進む。
寸切りを終えると今度は、根元を糸で縛りはじめた。

何度も毛を抜いて形と質を整え、
焼き締めをしたら焼きごてで角を丸く。
できあがったのは、穂首の先が広がった短い筆のようなもの……。

これこそが今回のニュークラフツ。
パソコンの埃を取り除く「熊野筆のパソコンクリーナー」だ。

柄はどこにでも置けるように工夫され、
実森さんが「きれいにホコリがとれるようにつくった」と語る
柔らかな良質の毛でつくられたクリーナーは、
パソコンにキズをつけることなく、
わずかなすき間に入り込んだホコリでもやさしくかき出してくれる。

筆の町が誇る伝統を、日常生活でも身近で感じられる、
これぞまさに熊野筆のニュークラフツだ。

アーツ&クラフツ商会 Lot.025 熊野筆のパソコンクリーナー

ダイジェスト動画

放送第25回:熊野筆のパソコンクリーナー

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