セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第26回 格調高き江戸べっ甲のマグネット

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大陸から長崎へ、そして江戸に伝わり花開いた伝統工芸「江戸べっ甲」。
貴重なタイマイの甲羅を材料とするその品は今も昔も高級品。
長い伝統によって磨かれた格調高い色艶は、人びとを魅了し続けている。
その独特の風合いを活かしたニュークラフツは、「江戸べっ甲のマグネット」だ。

江戸べっ甲の伝統

タイマイの甲羅
伝統の美しい輝き

今も昔も高級品の代名詞

日本におけるべっ甲の歴史は古く、飛鳥時代にまでさかのぼる。
聖徳太子が青年期を過ごしたとされる住居跡から
べっ甲の断片が出土しており、正倉院の宝物のなかでも、
名品とされる「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんごげんびわ)」にも、
べっ甲細工が施されている。
当時それらはすべて舶来の貴重品で、
限られた特権階級だけが所有できる品だったのだ。

べっ甲製品が日本でつくられるようになったのは、江戸時代のこと。
まずは、唐船(からふね)やオランダ船によって材料となる
タイマイ(ウミガメの一種)の甲羅が持ち込まれた長崎で
その加工技術が発達。やがて大阪や江戸に広まっていった。

当時のべっ甲製品は、大名の奥方や高級遊女たちが愛用する
女性用の髪飾りが主流で、庶民には高値の花だった。

明治時代になると、庶民のファッションへの関心が高まるにつれ、
製品の種類も増加。さらにその繊細なつくりが外国人の心をつかみ、
海外でも人気を博したという。

現在、ワシントン条約によりタイマイの国際取引が禁止されているため、
職人たちは、禁止前に確保していた材料を大切に使いながら、
伝統の美しい輝きを守り続けている。

江戸べっ甲の技術

この道50年の江戸べっ甲の第一人者
細かい刃の糸鋸で材料を切り出す
仮付けした生地をしばらく水に浸ける
圧縮機で圧着する
部品を木型にはめて固定
適度なカーブをつける
完成品

受け継がれる美しい輝きの秘密

伝統の技法を知るべく訪れたのは、千葉県市川市にあるべっ甲製作所。
松本仙翠(せんすい)さんは、この道50年。
べっ甲の眼鏡フレームに象嵌(ぞうがん)や螺鈿(らでん)の技法を
生かすなど、独自の製品づくりに挑み続ける江戸べっ甲の第一人者だ。

今回、制作過程を見せていただいたのは、高いデザイン性が人気の眼鏡。
まずは緻密な設計図をもとに、透明なセル板で型を作成する。

今回、制作過程を見せていただいたのは、高いデザイン性が人気の眼鏡。
まずは緻密な設計図をもとに、透明なセル板で型を作成する。

続いて、材料選び。
色だけでなく、厚みや堅さも吟味しながら、
仕上がりイメージに適したものを選ぶ。
色や斑(ふ)と呼ばれる黒い斑点の入り方によって価値は変わり、
一般的に透明度の高い黄色が多い程、高価とされている。
今回は、濃淡を強調するために、背中側の黒い甲羅と、
薄黄色の爪甲(つめこう)を使用する。

素材に型を合わせて印をつけ、
その印に沿って細かい刃の糸鋸で材料を切り出していく。

重要なのは、材料を無駄なく切り出すこと。
甲羅を眺めながら、ここはあそこに使おうとか、
考えることが楽しいんです。
パズルのようなものですね。
ー 松本仙翠

必要な生地を切り出したら、それらを接着。

大きな刃をもつガンギという専用のやすりで荒削りを施したら、
生地についた傷を小刀で取り除いて表面を滑らかに。
しかし、そのままでは生地同士がくっつきにくいので、
一度滑らかにした表面をサンドペーパーと木賊(とくさ)で
わざと荒らす。

続いては「仮付け」。
生地に塗るのは接着剤ではなく、ただの水。
重ね合わせた上から熱した鏝(こて)で押さえつけると生地同士が接着。
仮付けした生地がずれないように糸で巻いたら、しばらく水に浸ける。

職人の矜持が生み出す至高の輝き

ここからは張り合わせの作業。職人の腕の見せどころである。
水に浸した生地を木の板ではさみ、熱した鉄板で挟みこむ。

そこに圧縮機で圧力をかけると、甲羅に含まれる
膠質(にかわしつ)が溶け出し、接着剤がわりとなって生地が一体化。
接着材を一切使わないこの圧着の技術は、
江戸時代に日本で発明されたものとされる。

続いての作業は「ふかし」。
圧縮された生地のままでは硬すぎて、加工が困難なため、
べっ甲を手ぬぐいでつつみ、鉄板で温めて、柔らかくする。

いよいよ、模様づくりの工程に。

ガンギや糸鋸を用いて、デザイン通りに加工し、染色。
模様を構成する部品がすべてそろったら、
これらを木型にはめてきっちりと固定。
組み合わせた部品すべてをより強固に一体化する。

できた部品を真ん中で切断し、一方を逆さにしてV字模様に。
これを再び木型にはめ込んで圧着。
できた部品をデザイン通りに切断したあと、
強度を高めるために薄いべっ甲を貼る。

そこに眼鏡のツルの部品とつなぎ合わせ、ツルの部分に熱を加え、
耳にフィットする形を目指し、適度なカーブをつける。

仕上げは、小刀でやすりの跡を消し、バフで磨きをかける。
すると、見る間にべっ甲独特のツヤが現れるのだ。

部品を組み立てたら完成。伝統工芸、江戸べっ甲の眼鏡。
気品あふれる美しさは、職人の技と知恵の賜物だ。

江戸べっ甲は、常に進化しています。
進化が無ければ、伝統を守ることもできない。
止まったらアウトでしょうね。
ー 松本仙翠

江戸べっ甲 × マグネット

パーツを切り抜く
完成した江戸べっ甲のマグネット
丁寧な面取り仕上げで、まだら模様が鮮やかに際立つ

伝統によって磨かれた美しきニュークラフツ

今回、江戸べっ甲のニュークラフツに挑むのは、第一人者の松本さん。
アーツ&クラフツ商会からのオーダーは、
「家族みんなで使えて、べっ甲の美しさを堪能できるアイテム」
というもの。

この依頼内容を確認した松本さんは
「素材は肉厚で、削るときれいな色が出るようなものがいいですね。
素材を活かしたアイテムにしたい」
と、完成形をイメージして素材を選んでいく。

選び抜いた素材から、丸いパーツを切り抜く松本さん。
続いて、三角形、そして四角形……。
貴重な素材から無駄なく、次々にさまざまな形を切り出していく。
いったい何ができるのだろうか?

完成したのは、「江戸べっ甲のマグネット」。
形は丸、三角、四角の3種類。丁寧な面取り仕上げにより、
べっ甲独特のまだら模様がより鮮やかに際立っている。

注文を聞いたとき、正直どうしてそんなものをと思いましたよ。
ただ丸と三角、四角に切って、
マグネットに張り付けるだけだなんて、
そんな簡単な仕事は職人としてのプライドが許さない、と。
職人はいつも、難しいことに挑戦していたいんです。
でも、少し考え方を変えれば、
これまで世に存在していないものをつくること、
それだけでもチャレンジなのではないかと。
簡単に思えるものでも、面取りを工夫してみるなど、
必ず新しいことを取り入れられる。
改めてそんなことに気づかされました
ー 松本仙翠

見て楽しい、使って楽しい
これぞまさに「江戸べっ甲」のニュークラフツ。
伝統によって磨かれた格調高い輝きが日々の暮らしを美しく彩る。

アーツ&クラフツ商会 Lot.026 江戸べっ甲のマグネット

ダイジェスト動画

放送第26回:江戸べっ甲のマグネット

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