セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第28回 伝統の技術を凝縮した紀州へら竿のはんこケース

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「紀州へら竿」は、多くの釣り人の憧れとなってきた逸品だ。
竹の性質を見極めながら、丹念につくり上げられるその竿は、ねばり強く、しなやかで、繊細。
そんな熟練の技で生みだされたニュークラフツは、竹をつないでつくるはんこケースだ。

紀州へら竿の伝統

和歌山に生息する高野竹
初代「竿正」(溝口象二)
天然素材で一本ずつ、職人が手仕事でつくる

釣り人が愛してやまない伝統の逸品

多くの釣り人に憧れをもって語られる釣り竿がある。
それが、紀州・和歌山の伝統工芸品「紀州へら竿」だ。
機能性と芸術性を備えた紀州へら竿の材料は、天然の竹のみ。
およそ130もの工程を経て職人がひとりでつくり上げるため、
注文しても手に入るのは1年先。
まさに、釣り人の憧れともいえる釣り竿だ。

魚釣りが、娯楽として花開いたのは江戸時代。
八代将軍・徳川吉宗も大の釣り好きとして知られ、
お抱えの竿師までいたという。当時、魚を釣るための和竿には、
魚の大きさや重さにあわせたものがつくられていた。
なかでも、激しい引きが特徴のヘラブナ釣りは、釣り人を魅了し、
江戸時代に書かれた日本最古の水産辞典「水族志」(すいぞくし)には、
へラブナの大きさや特徴が詳細に記されている。
ヘラブナは、釣るのが難しく、玄人好み。
人びとは、ヘラブナを釣るため、えさの配合や浮きを工夫するなかで、
魚の引きをより感じられる、しなやかで頑丈なへら竿を考案した。

現代にも受け継がれるへら竿を考案したのが、
初代「竿正」(さおしょう)こと、溝口象二(しょうじ)。
明治15年、大阪で竹細工を生業としていた溝口が
制作をはじめたと言われている。
大正に入り、より良質な材料を探し求めていた竿正の弟子たちは、
和歌山に生息する高野竹と出合い、
拠点を大阪から高野竹の産地である紀州、和歌山へと移す。
「紀州へら竿」の誕生である。
最盛期の昭和20年頃には100人近くいたへら竿師だったが、
カーボンやグラスファイバー製などに押され衰退し激減。
半数にまでなってしまった。
しかし、天然素材で一本ずつ、職人が手仕事でつくる
「紀州へら竿」には根強いファンが多く、
1988年に国の伝統工芸品として認定され、
今なお釣り人の間で愛されている。

紀州へら竿の技術

乾燥させた竹を選定する田中和仁さん
火入れ
「ため木」でまっすぐに伸ばす
絹糸を巻いた部分に漆を塗る
「握り」の装飾
完成品

すべては素材との対話から

そんな「紀州へら竿」の制作風景を見せていただくために訪れたのは、
高野山の宿場町として栄えてきた和歌山県橋本市の
田中和仁(かずひと)さんの工房。
かつて大手電機メーカーのシステムエンジニアだったという
異色の経歴の持ち主だ。
趣味のヘラブナ釣りで出会った紀州へら竿に感動。
転職を決意し、5年間の修業を経て、独立したという。

今回は、
「元(もと)」、「穂持ち」、「穂先」の3本継ぎの工程を見学。
持ち手となる「元」には反発力が強い矢竹、
竿の真んなかで要となる「穂持ち」部分には、粘りのある高野竹、
繊細な「穂先」には、真竹という太い竹が使われる。
材料となる竹は、竿師が自分で山から切り出し、
5年から10年もの間乾燥させ、数百本のなかから厳選されたものだ。

まずはじめに、元と穂持ちに使う2本の竹を、
しなりや曲がり方のバランス、
元と穂持ちを繋ぐためのサイズを見極めて選定。
この2本の竹に竿師の命とも言われる「火入れ」を行う。
炭火を入れた七輪で竹をあぶり、その竹を「ため木」と呼ばれる
専用の道具でまっすぐに伸ばす。
竿師の経験と感性が問われる重要な工程で、
竹の繊維を引き締め、反発力を高める効果もある。

火入れの工程に多くの時間を費やします。
竹と戦うのではなくて、対話する感覚です。
1回火入れをして終わりではなくて、
何日かするとまた竹の癖が出てくる。
この癖を直すために、根気強く火入れを行います。
ー 田中和仁

その後、火入れをした2本の竹の内側に、
細い竿を収めることができるよう、キリで節を抜く。
こうすることで、竿がよりしなやかになるのだ。
この作業で使われるサイズの違う30〜40本のキリも、
すべて竿師の自作。
そして、竿の継ぎ目を丈夫にするための大切な工程が「絹糸巻き」。
糸を巻いた部分の強度を上げる作業だ。
漆を丹念に塗り込み、一晩かけて乾かした後、
漆部分を水性ペーパーで研ぐ。
この漆塗りと研ぎだしを7,8回繰り返すことで、
継ぎ目からの水分が浸透するのを防ぐことができる。

竹の繊維は基本的に縦に走っていて、
横の繊維があるのは節の部分だけ。
そこに横の糸を巻くことで竿を強くし、割れが防げるのです。
ー 田中和仁

美術的な価値を生む独創性と確かな仕事

竿の持ち手となる「握り」は、釣り師と竿がつねに触れ合う部分。
握りやすい太さになるよう新聞紙を巻く。
握りは、竿師の個性や特徴が最も表れる部分で、
田中さん独自のアレンジが加えられる。
この装飾は工芸品として名高い「紀州へら竿」の
美術的な価値も生みだしている。

そして、3本目の穂先の先端をわずか0.3mmに削る「穂先削り」。
材料となる真竹は、繊維が細く、強くて丈夫な外側の数ミリだけ。
まず、4本の真竹を四角形に切り出す。
さらに、この4本の真竹をボンドで密着させ、
刀やヤスリを使って最適なバランスとなるまで削っていく。
こうすることで、強度が増し、
どの方向からの力にも耐えられるようになるのだ。

最終工程の「胴漆塗り」では、
漆を指に取り、竿全体に指で塗り込んでいく。
漆を拭き取り、色・艶が美しく出るまで5回ほど繰り返し行うことで、
太陽の強い日差しや雨からも守ることができる。
最後の仕上げには、ふたたび「火入れ」。
竿をつなぎ合わせ、漆に影響がでないよう弱火で火を入れる。
こうして、長年継承されてきた紀州へら竿が完成するのだ。

田中さんの紀州へら竿への想いは強く、
後継者の育成にも力を入れており、
現在、紀州のへら竿師全員が師匠となり、2人の若者を育てている。

彼らはもう1年半ほど修行をしていて、順調に育ってくれています。
紀州へら竿の伝統を絶やしたくないんです。
ー 田中和仁

紀州へら竿 × はんこケース

ニューアイテム作りに挑む田中和仁さん
完成した紀州へら竿のはんこケース

熟練の技術が生んだニュークラフツ

田中さんは、へら竿づくりの技術を応用して、
釣り用のはさみケースや耳かき、箸、ボールペンなども制作している。
そんな田中さんに、依頼したのは“へら竿の職人技が光るような
文房具のアイテム”だ。

へら竿の竹をつなぎ合わせる技術を活かすには
どうすればいいのか、悩みました。
そして考え出したのが、竹を小さく、ぎゅっと濃縮したものです。
ー 田中和仁

試行錯誤の末、完成したのは、はんこケース。
小さな竹をつないだケースに、はんこが納められている。
そして、キャップには朱肉。
持ち歩きにも便利なスリムタイプだ。
はんことケースが隙間なくぴったりとフィットし、
キャップを限界まで削ることで、繊細な印象を生みだしている。
これぞまさに、紀州へら竿のニュークラフツだ。

アーツ&クラフツ商会 Lot.028 紀州へら竿のはんこケース

ダイジェスト動画

放送第28回:紀州へら竿のはんこケース

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