セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第30回 洒落と粋をみごとに表現した江戸独楽の鏡餅

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さまざまな工夫がこらされたバラエティゆたかな「江戸独楽(えどごま)」。
オリジナルの独楽を生みだす職人が手がけたのは、インテリアにもなる鏡餅の江戸独楽。
江戸から連綿と続く確かな匠の技が生みだしたニュークラフトは、お正月のにぎやかな空気に、新たな華を添える。

江戸独楽の伝統

曲独楽師の名人芸
鳴り独楽
工夫をこらしたさまざまな独楽

革新が起こった江戸時代

目を見張るような曲独楽師の名人芸により、
扇子の上で倒れることなく回る独楽。その独楽の名は「江戸独楽」。
300年の歴史に裏打ちされた精緻な手仕事の結晶だ。

独楽の歴史は古く、世界各地で自然発生的に誕生したと言われている。
エジプトで発見された紀元前20世紀〜紀元前14世紀の独楽が、
現存する最古のもの。
日本でも木製の独楽が各地で出土しており、
7世紀ごろには存在していたようだ。
奈良時代になると、大陸から日本へ雑技として独楽回しが伝わり、
朝廷行事などの余興として、貴族のあいだで楽しまれるようになった。

「独楽」という言葉がはじめて登場するのは平安時代。
和漢辞書「倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」によると、
独楽の日本名は「こまつくり」ともいい、
穴の空いたものとの説明がある。
これは胴体にあけた穴から音が出る仕組みで、
現代の「鳴り独楽」のようなものだと考えられている。
室町時代には身分や季節に関係なく
子供の玩具として庶民にも浸透していった。

そして江戸時代、独楽に革命がおこる。
心棒に鉄を使うことで、ブレが少なく長時間回せる独楽が
博多で生まれたのだ。
さらに、元禄時代に京都で初太郎という美少年が
独楽の曲芸を披露したことから、
芸としての曲独楽が誕生した。
曲独楽は江戸でもたちまち評判を呼び、
薬を売るための客寄せで演じる者や、見世物興行する者が現れるなど、
空前のブームが巻き起こった。
江戸においても、曲独楽をはじめ、工夫をこらしたさまざまな独楽が
つくられるようになった。

江戸独楽の技術

独楽をつくり続けて70年になる広井政昭さん
硬く変形の少ない広葉樹のミズキ
粗挽き
心棒についた絵の具の濃淡で、バランスを判断する
模様付け
完成品

途絶えかけた曲独楽を復興

この曲独楽の制作工程を見せていただくために訪れたのは、
独楽をつくり続けて70年になる神奈川県海老名市の
広井政昭(ひろいまさあき)さんの工房。
実は曲独楽は、50年ほど前に職人が途絶え、
廃絶の危機に陥ったことがある。その窮状を救ったのが広井さん。
それまで手がけたことのなかった曲独楽を5年にわたって研究し、
曲独楽の芸に耐えうる独楽の制作に成功したのだという。

曲独楽の要となる心棒には、強度が高いステンレス棒を使用。
ヤスリで棒の先端を尖らせ、ろくろに固定し、金ヤスリで仕上げる。
続いて木の選択。主に硬く変形の少ない広葉樹のミズキが使われる。
曲独楽は高い精度が求められるため、
長年かけて乾燥させたゆがみの少ない木材が用いられる。

木は湿気を呼吸することで、多少の変形があるんです。
その変形を取るために、10年から30年以上寝かせます。
ー 広井政昭

こうして吟味した木材を、独楽の大きさに切断し、ろくろに固定。
「粗挽き」を行う。
刃先が曲がったカンナ棒で樹皮を削り、独楽の形に成形する作業だ。
ウシと呼ばれる台にカンナ棒を乗せ、
刃の位置や角度、力の度合を微妙に調節。
独楽の裏側は、ゆるやかな傾斜がつくように削る。

続いてミゾヒキと呼ばれる半円形の刃物で、
中央に深さ2センチほどの凹みをつける。
この凹みは表側を削る際に、独楽を裏返し、
ろくろに固定するためのもの。
そして、小さな木片を先ほどの凹みに合うよう凸型に削る。
穴の大きさや深さなどは、すべて目見当だが、これがぴたりと合う。
そして全体を均一に削ることに心血を注ぎながら、形を整えていく。

江戸独楽はバランスが命

その後、独楽の中心に、小さなミゾヒキで心棒を通すための穴をあける。
その穴に、ゆがみのないよう慎重に心棒を入れる。
長年の勘を頼りに、心棒の出具合を調節。
しかし、この状態で独楽を回すと、重心がずれ、まっすぐに回らない。
バランスを整えるために使われるのが、絵の具をつけた筆だ。
回した独楽の心棒に、筆を一定の距離を保ったまま近付け、
独楽の心棒についた絵の具の濃淡で、
独楽の重い部分と軽い部分を判断する。

絵の具がついた部分は軽いんです。
重たい部分が回転の遠心力で上に傾き、軽いほうが下に傾く。
そこで、独楽の軽い部分に鉛をつけていきます。
鉛を付ける量は長年の経験。あとは、引くか、足すかの作業です。
ー 広井政昭

鉛の量や、つける場所を少しずつ変えながら、丹念にバランスを調整。
この作業に、ときには4、5日を費やすこともあるという。
バランスがとれたら、独楽にドリルで穴をあけ、鉛を埋め込む。

曲独楽は誰が見ても、一番シンプルな独楽です。
しかし、ひじょうに難しく、奥が深い。
あくまで、バランスが命です。
1にバランス、2にバランス、3、4がなくて、すべてバランス。
ー 広井政昭

次は彩色の工程。
漆のような仕上がりが特徴のカシュー塗料を使用する。
まずは下地を塗り、一晩乾燥させたのち、サンドペーパーで研磨する。
この作業を2、3回繰り返すことで表面が滑らかになり、
色が乗りやすくなるという。
そして、本塗りでは独楽全体に朱赤(しゅあか)の塗料を
ムラなく丁寧に塗っていく。
仕上がりがふっくらとなるよう、一度に厚く塗らず、1日以上乾かし、
研磨した後、再び塗り重ねる。次に黒で模様付け。
デザインは、江戸時代から変わらないシンプルなものだ。
最後に金を施したら完成。2週間に及ぶ地道な作業を経て、
端正な姿の独楽が誕生する。

江戸独楽 × 鏡餅

木に命を吹き込む広井政昭さん
完成した江戸独楽の鏡餅
鏡餅からもうひとつ独楽が飛び出す

ユーモラスな仕掛けのある鏡餅の江戸独楽

ニュークラフツ製作に挑む広井さんは、
これまで400種類を超えるオリジナルの江戸からくり独楽を
生みだしてきた。
そんな広井さんによって、木に命が吹き込まれる。

そりゃ、プロですから、期待してください。
図面もなにもない、本当に思いつき。
独楽っていうのは、基本的には回るだけなんです。
人間の指先や手で回したものが、
本当の独楽なのではないでしょうか。
何十秒かの世界。ごく短いドラマなんです。
ー 広井政昭

そして完成したのが、
インテリアとして部屋に飾れる江戸独楽の鏡餅。
この鏡餅、独楽なのでもちろん回すことができる。
しかも、鏡餅からもうひとつ独楽が飛び出し、
回りはじめるからくりが。
赤い杯の形をした独楽に乗っているのは、白い猿。

1年間を無事におめでたく、健やかに過ごせるよう、
縁起の良い白のお猿さんをつくりました。
ー 広井政昭

洒落、色彩、粋がつまった、
これぞまさに「江戸独楽」のニュークラフツである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.030 江戸独楽の鏡餅

ダイジェスト動画

放送第30回:江戸独楽の鏡餅

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