セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第32回 先人の知恵を暮らしに生かす江戸箒のパンくず箒

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上質の素材を用いて、手間ひまをかけてつくられる「江戸箒(えどほうき)」。
約180年の伝統を誇るこの逸品は、シンプルで上品でありながら機能性に優れ、長く使えることもあり、エコ意識の高まる今、再び注目を集めている。
先人の知恵と技を生かしたニュークラフツは、現代の暮らしにみごとに溶け込んでみせた。

江戸箒の伝統

掃除道具としての箒
素材の「ホウキモロコシ」
座敷箒のひとつである「江戸箒」

神具から、掃除道具へ

「箒(ほうき)」は、もともと掃除道具ではなかった、
と知れば驚く人もいるだろう。

正倉院には、「子日目利箒(ねのひのめとぎぼうき)」という箒が
所蔵されている。
これは、奈良時代に考謙天皇の主宰による
正月初子(はつね)の日に蚕室(さんしつ)を掃き、
養蚕の神を祀る神聖な儀式に用いられたもの。
つまり箒は、もとは神事の道具だったのだ。

平安時代になると、宮中では年末に煤を払う「すす払い」が習慣化し、
箒は神事から掃除の道具に。
さらに鎌倉時代に中国から禅宗が伝わると、
“一に掃除、二に座禅”といわれるほど、
禅寺では掃除が重んじられていたため、
箒は修業に欠かせないものとなった。

さらに室町時代になると、
庭内を清掃する庭奉行の「庭掃(にわは)き」という役職や、
「箒売り」なる職業が存在したほどに、
掃除道具としての箒は人びとの暮らしに浸透していた。

江戸時代には、板の間用に重宝されたシュロ箒などに加えて、
当時普及しはじめた畳の座敷を掃くための箒が誕生。
これは座敷箒(ざしきぼうき)とも呼ばれ、
江戸を中心に広まっていった。

今回紹介するのは、座敷箒のひとつである「江戸箒(ぼうき)」。
厳選された素材のみを使用する江戸箒は、機能性に優れ、
長く使えるのが特徴で、編み込みも緻密で実に手が込んでいて美しい。

ハウスダストが舞いにくく、深夜でも騒音を気にせずに使える箒は、
最近では1本4万円もする高級品が評判になるなど、
上質な暮らしを求める人びとを魅了している。

江戸箒の技術

江戸箒職人の神原良介さん
玉づくり
しなりを生むすき間
耳作り
胴締め
形を整えていく
完成品

約180年続く繊細な職人技

箒づくりを見るために訪れたのは、東京都中央区京橋の路地裏。
天保元年(1830年)創業の「江戸箒」の老舗、
「白木屋(しろきや)中村傳兵衛(でんべえ)商店」だ。
そもそも江戸箒は、同店が180年ほど前につくりだしたもの。
現在、その技を受け継ぐ職人は4人だけ。
今回は、そのうちのひとり、神原(かんばら)良介さんに
「手箒(てぼうき)」の制作過程を見せていただいた。

まずは、「草選り(くさより)」から。
良質な素材選びは、箒づくりで最も重要な作業である。
草のコシが強いほど、ゴミを掃き出す力が増すという。
素材は、「ホウキモロコシ」という植物。仕入れた素材のうち、
実際に使用されるのは1割ほどだ。

選りわけたホウキモロコシを3時間ほど水に浸して柔らかくしたら、
麻糸でたばねて「芯」をつくる。

芯に、カラと呼ばれるホウキモロコシの茎を巻き付けたものが
「玉」と呼ばれるもの。
今回つくる箒は、この「玉」と「耳」というパーツで構成される。

「玉づくり」では、きつく糸を張り、
カラの周囲に選り分けた草を足しながら太くしていく。
このとき、玉の形を整えるように、
草の太さや穂先の長さなどを瞬時に選別。
ピンと張った糸にホウキモロコシを交互にくぐらせ、編み込む。
江戸箒の美しい格子模様は、こうしてつくられるのだ。

玉づくりはもちろん力のいる作業ですが、力を入れ過ぎてもダメ。
編み込みの角度などが変わってしまいます。
この微妙なバランスが難しいんです。
ー 神原良介

余分なところを切り落とし、形を整えたら玉の完成だ。
すき間が空いているように見えるが、実はここがポイント。
「このすき間がしなりを生む」のだという。

上質の天然素材と手仕事が生む温もり

次は箒の要となる「耳」。掃くときに力が加わる重要なパーツだ。
ある程度の重みを出すため、
ホウキモロコシとカラを少しずつ足しては編み、太くしていく。

江戸箒は見栄えを良くするために、
箒の表と裏の編み込みの幅が、同じサイズになるよう、
草の太さや編み込む糸の目を均一にそろえなければならない。
丈夫でかつ美しく。職人の腕の見せどころだ。

穂の根元を折り曲げて柔らかくし、さらに木槌でたたき、
玉と同じ厚みになるようにつぶして耳が完成。

続いては「胴締め」。麻糸を口にくわえ、
渾身の力を込め胴体をしばる神原さん。
竹の柄を差し込み、穂先の広がりを木綿糸でとじる。

木槌で両面を強く叩いたり、穂の部分を糸で縫いながら、
徐々に形を整えていく。

作業はいよいよ大詰め。
神原さんが取り出したのは、
ノコギリの刃を手に持ちやすく加工した手づくりの道具。
これで穂についた種を取り除く。
そして最後に穂先をハサミで切りそろえ、1週間ほど乾燥させたら、
江戸箒の完成だ。

「職人各自が、それぞれの形を出しなさいと、
師匠にはつねに言われています」と語る神原さん。
今日も自分だけの“形”を求めて、黙々と作業を続ける。
そこにはこんな想いもある。

箒づくりに使う天然素材は、
選ってはいても硬さや色合いなど毎回ちがうので、
どうしても同じ形にはなりません。
だからこそ、いつも新しいものをつくる感覚なんです。
そこが難しいし、面白いところ。
そんな箒づくりの伝統を次世代につなげていけたらいいですね。
ー 神原良介

手仕事ならではの温もりあふれる江戸箒は、
こうして次世代へと受け継がれていく。

江戸箒 × パン屑箒

作業を進める神原良介さん
完成したパン屑箒

長く使いたい江戸箒のニュークラフツ

箒のニュークラフツづくりに挑むのは、神原良介さん。
数少ない江戸箒の職人だ。

スタートは「耳」づくりから。
余分なカラを切り落とし、残したカラを薄くなるまで木槌で叩く。
そして、小さめの柄を芯に見立てて、編み込んで「玉」を用意。
この玉に、2つの耳を柄の両側から挟むと……。

完成したのは、小さな箒。これは、いったい?
これこそが今回のニュークラフツ、「パンくず箒」だ。

素材には希少な国産のホウキモロコシが用いられ、
パン屑が落ちてもサッと掃けるよう、サイズも小ぶりに。
小さい箒は、編み込みが細かくなるため、
つくるのが難しいのだという。

江戸箒の型を応用したこの特別な箒は、
柿渋が塗られた「はりみ」と呼ばれるちりとりとセット。
使わないときは、これをまとめて部屋の片隅にかけておけるのもいい。

飾っておくだけでなく、実際にぜひ使っていただきたい道具です。
ー 神原良介

現代のライフスタイルに伝統の技を取り入れた、
これぞまさに、江戸箒のニュークラフツ。
モノを大事に使う先人の知恵と技が生かされた逸品である。

アーツ&クラフツ商会 Lot.032 江戸箒のパン屑箒

ダイジェスト動画

放送第32回:江戸箒のパン屑箒

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