セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第33回 人を笑顔にする木目込けん玉

TOP > 作品アーカイブ > 第33回 人を笑顔にする木目込けん玉
我が子の健やかな成長を願うひな人形や五月人形……。
まるで本物の着物を纏っているかのような「江戸木目込人形」に、人は癒され、顔をほころばせてきた。
今もなお受け継がれている精緻な技。そのニュークラフツは、遊んで愉しい美しい木目込けん玉である。

江戸木目込人形の伝統

着物を着ているように見える
賀茂人形
雛人形

江戸に伝わった京都発祥の人形づくり

江戸木目込(きめこみ)人形の特徴は衣装にある。
着物を着ているように見えるが、実際はそうではなく、
“木目込”んでいるのだ。
「木目込」とは、胴体に衣装を直接貼りつけ、
布の端を溝に埋め込んで仕立てる技法のこと。
ひな人形の雅な十二単が形崩れしないのは、
胴体にぴたりと木目込まれているからである。

江戸木目込人形のルーツは京都にある。
18世紀前半、上賀茂神社にて、宮大工・高橋忠重(ただしげ)が、
柳の木を彫ってつくった「賀茂人形」がそのはじまりだ。

忠重がおよそ270年前に手がけたという賀茂人形がある。
「七福神」と題された人形の大きさはわずか3cmほど。
現在の木目込人形に比べてかなり小ぶりだが、
人形の溝に布を埋め込む技法が見受けられる。

忠重の賀茂人形は、ユーモラスな表情と
本当に衣装を着ているような作風が特徴だ。
この技法をさらに洗練させたのが、
忠重の孫・大八郎(だいはちろう)。
代表作「大名行列」では、9体からなる人形を生き生きと表現。
衣裳は木目込まれ、表情も実に豊か。大八郎は人形づくりの
名人と称えられ、一世を風靡したと伝えられている。

やがて賀茂人形は、京都のみやげ物として江戸で
もてはやされるように。しかし、当時は高級品だったため、
手にできたのはお金持ちだけだった。

そんな状況を変えたのが吉野栄吉。京都で学んだ東京の人形師である。
彼が編み出した画期的手法とは、胴体づくりに桐のおがくずに
正麩糊(しょうふのり)を混ぜた「桐塑(とうそ)」を用いたこと。
これにより大量生産が可能になり、
多くの人たちが楽しめるようになった。

こうして、京都で生まれた木目込の技術が東京で広まり、
雛人形に代表される江戸木目込人形が誕生したのである。

江戸木目込人形の技術

かま詰め
胡粉(ごふん)を塗り、胴体をコーティング
筋彫り
木目込
顔を描く
仕上げを施す伝統工芸士の新井久夫さん
完成品

職人の連係プレイでつくられる木目込人形

木目込人形づくりを見るために訪れたのは、
埼玉県さいたま市の北西部に位置する岩槻区(いわつきく)。
江戸時代より“人形の町”として知られる岩槻で生まれ育った職人、
新井久夫(あらいひさお)さんの工房だ。

10人以上の職人が分業でつくる江戸木目込人形。
その伝統工芸士である新井さんは、デザインから最終的な仕上げまで、
すべての工程に指示を出し、品質を管理する
いわばプロデューサーである。

今回見せていただいたのは、ひな人形の制作工程。

まずは、人形の胴体をつくる「かま詰め」から。
岡﨑定永(やすなが)さんは、胴体の生地専門の職人。
「桐塑(とうそ)」を人形の型を取った「かま」に詰める。
これが、木目込人形の胴体の生地となる。
粘土状の胴体を1週間ほど乾燥させて完成。

完成した生地を手に、新井さんのご子息である新井善也さんが、
貝殻の粉を「にかわ」で溶かした「胡粉(ごふん)」を塗り、
胴体をコーティング。
白い胡粉は胴体の生地を引きしめ、布の発色を良くするのだという。

続いての「筋彫り」を担当するのは、
この道47年の職人、鈴木伸一さん。
筋彫りは、回転するカッターを使い、
木目込に欠かせない溝を掘る重要な作業だ。

ここでようやく「木目込」。新井久夫さんの出番である。
まず、米の粉末である寒梅粉(かんばいこ)を水で溶いた糊を、
人形につける。
寒梅粉はゆっくりと乾くため、布の皺など微調整しやすいのが特徴だ。

人形にきれを張りつけ、溝に沿って布を軽く押し込み、
余分な部分を切り落とす。
1ミリにも満たないわずかな布を溝に押し込み、美しく仕立てる。
これこそ木目込の技である。

人形に命を吹き込む職人の精緻な技

「できるだけ着物を着ているように見せる」と語る新井さんは、
着物の皺や、縫い目など細部のリアリティーにこだわる。
十二単の襟の部分はその最たるもの。
幅2センチほどのわずかなスペースに、
15枚もの布を重ねる技は精緻を極める。

まずは人形の下着にあたる部分を木目込んだら、赤い布を貼り、
すぐその上に白い布を重ねる。
赤い布をほんのわずか出すことで裏地のように見せる技だ。
こうして微調整を繰り返しながら、
わずか数ミリの細長い布を一枚ずつ重ね合わせていく。

亡くなった大先輩が、よくおっしゃってました。
「ズボンをはいてからパンツははけないだろう。
人が着る順番で人形にも着物を着せてあげなさい」と。
― 新井久夫

続いては、人形の頭(かしら)。
人形の命と言われる顔を描くのは、
頭づくり専門の職人、吉田広幸さんだ。

筆を入れるのはおでこから。
生え際の髪の毛を一本一本筆先で丁寧に。
顔のパーツによって墨の濃淡を使いわける吉田さんの傍らには
複数のすずりが置かれている。

とくに神経を集中させるのが、人形の表情を左右する目の部分。
下書きの上に濃い墨で瞳を描き、人形に命を吹き込む
ひじょうに繊細な作業だ。

基本的にはお殿さまはりりしく、お姫さまはやさしそうに。
自分でも納得できる表情を出すのが一番ですよね。
― 吉田広幸

その後新井さんが、最終的な仕上げを施し人形は完成。

人は人形がなくても生きていけるものです。
しかし、これがあることで癒やされたり、心が落ち着いたり、
思わずニコッと微笑んだりする瞬間があります。
それもまた、人間らしいところ。
そんなことを考えながら、心を込めてつくり続けています。
― 新井久夫

江戸木目込人形 × けん玉

筋彫りを進める鈴木伸一さん
完成した木目込けん玉

インテリアとしても楽しめる江戸木目込人形のニュークラフツ

人びとに安らぎと癒やしを与える江戸木目込人形。
そこには細部までこだわる職人の技と想いが込められている。
そんな江戸木目込人形のニュークラフツづくりに挑戦するのは、
筋彫り職人の鈴木さんと、伝統工芸師、新井さん。
いずれもこの道40年以上の大ベテランだ。

オーダーの内容はなんと、近年海外でも大人気の「けん玉」。

熟練の連係プレイによって完成したのは、
和風のインテリアとしてもおしゃれで、
老若男女が楽しめる「木目込みけん玉」だ。

2つのけん玉はおそろいの柄で、色を変えてみました。
立ち雛のイメージなんです。大変だったのは形。
着せることを前提としていない形でしょ。
おそらく、筋彫りも大変だったと思います。
― 新井久夫

木目に逆らったところを彫るのが大変でした。
刃物がひっかかるんです。でも面白かったですよ。
― 鈴木伸一

部屋に彩りを添え、手にした者に笑顔をもたらす「木目込けん玉」。
これぞ、江戸木目込人形のニュークラフツである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.033 木目込けん玉

ダイジェスト動画

放送第33回:木目込けん玉

作品アーカイブに戻る