セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第34回 汚れと厄を洗い流す鬼瓦のソープディッシュ

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古来、寺や城、そして民家の屋根にあり、人びとの平穏な暮らしを守ってきた「鬼瓦」。
その“いぶし銀”の存在感は、職人の繊細な手仕事の賜物である。
今密かに注目を集める伝統工芸のニュークラフツは、邪気を祓い、人を笑顔にする逸品となった。

鬼瓦の伝統

建物を守る厄除けの意味が込められた
立体的な肉付けが施された
家紋が用いられた鬼瓦

仏教とともに伝わった鬼瓦

「歴女」や「城」ブームの昨今、
密かに注目を集めている伝統工芸がある。それが「鬼瓦」だ。
鬼瓦とは建物の棟の端につける飾り瓦の総称で、
屋根の両端から雨水が侵入するのを防ぐためのもの。

鬼瓦が日本の歴史に登場したのは6世紀。
日本書紀には、588年に飛鳥寺建立指導のため百済(くだら)から
4人の瓦技師が渡来したとあり、
このころにその技法も日本に伝わったとされている。

元来、鬼瓦は仏教の建築様式であったため、
その文様には仏殿を飾る蓮華紋(れんげもん)が用いられていた。
しかし奈良時代、瓦屋根が宮殿にも採用されはじめると、
鬼瓦には邪悪なものから建物を守る厄除けの意味が込められ、
獣の全身像や鬼の顔が施されるように。それが全国に普及し、
やがて「鬼瓦」という呼び名が誕生した。

室町時代には、それまで主に型押しでつくられていた鬼瓦は、
手作業で立体的な肉付けが施されるなど、日本独自の造形に進化。
また、各地の武将が築城を競い合うようになると、
城を飾る鬼瓦の文様に旗じるしや家紋が用いられ、
鬼瓦は権力の象徴となっていった。

武家や裕福な商家が瓦屋根の屋敷を建てはじめた江戸時代には、
幕府が防火対策の一環として瓦屋根を奨励したこともあり、
鬼瓦は庶民の民家にも普及。
江戸の町では隣り合う家同士、鬼面が睨みあうことを避けるため、
新たに縁起の良い、
工夫を凝らした鬼瓦がつくられるようになったという。

このように日本の建築には欠かせない鬼瓦は、
伝統の技を受け継ぐ職人
――熟練の職人は“鬼師”と呼ばれることもある――
の手によって、今もつくられている。

鬼瓦の技術

この道65年の大ベテラン、杉浦義照さん
土台づくり
金ベラ
ヘラで形を整える
ヘラを当て、表面をなめらかにする
乾燥させる
完成品

繊細な手仕事の賜物

鬼師の技を見るべく訪れたのは、愛知県高浜市
――国内で生産される瓦のおよそ6割を占める
三州瓦(さんしゅうがわら)の中心産地――で
1907年(明治40年)から鬼瓦をつくり続けている山本鬼瓦工業だ。
親方の杉浦義照(よしてる)さんは、この道65年の大ベテラン。
国宝・西本願寺をはじめ、文化財の鬼瓦の復元にも携わる
日本でも指折りの鬼師である。

杉浦さんが手がけていたのは、
お寺に納める鬼面鬼瓦(きめんおにがわら)。
その作業は、土台づくりからはじまる。
愛知県西三河地域で採掘される三州土(さんしゅうづち)を
練りあげた荒地(あらじ)とよばれる板状の粘土を数枚張り合わせる。
このとき先がクシ状になった道具で、接合面に傷をつける。
これは「カキヤブリ」という、接合面の表面積を大きくすることで
粘土同士を接着しやすくする技だ。

型紙を荒地にのせ、輪郭線を竹ベラでなぞって写したら、
専用のカマで線に沿って粘土を切り取る。
その周囲にカキヤブリを施し枠を付け、
さらに紐状にした粘土で土台を補強。
内側に支えの粘土を付け、裏面を張り付ければ、箱状の土台の完成だ。

ここからが鬼面づくり。
箱状の土台に湾曲させた荒地をつける。これが、鬼の顔の基礎となる。
その表面にしっかりとカキヤブリを施してから、
粘土を盛り、顔の肉付けをする。
このとき、粘土の硬さにちがいがあるとひび割れやすくなるため、
全体のバランスを見ながら一気に盛り付ける。

土を付けて形ができてくると、そのたびに顔が変わるでしょ。
そうすると、気分がのってくる。
― 杉浦義照

鬼面に魂を吹き込む鬼師の技

粘土を削ぎ、付け足し、また削いで……。
巧みにヘラを操りながら、牙をつけ、目を入れ、
鬼の顔に魂を吹き込む杉浦さん。
長年の経験で培った勘をもとに、ヘラで形を整えていく。
熟練の鬼師ならではのヘラさばきは動きにまったく無駄がなく、
実にみごとだ。

ある程度、鬼の顔が整ったら、
2、3日寝かせたのち、本仕上げの作業に。

ここで杉浦さんが取り出したのは「吐け土」と呼ばれる、
粒子の細かい良質な粘土を水で溶いたもの。
これを鬼瓦の表面に塗ることで、
焼き上げた際に独特のツヤが出るのだとか。
作業を終えたら、鬼瓦に布とビニールをかぶせる。
こうして自然乾燥させることで、土が馴染むのだという。

さて、鬼面づくりはようやく最終段階へ。磨きの作業だ。
杉浦さんがヘラを動かすたびに、
鬼の顔にさらに力強さがみなぎっていく。

丁寧にヘラをかけると、焼き上がりにいい色が出る。
鬼瓦は、屋根の“簪(かんざし)”だからね。
下から見上げて、いいものが揚がっているな、
と思ってもらえるようなものにしないと。
― 杉浦義照

作業はこれで終わりではない。
ここからおよそ1カ月をかけて、ゆっくりと粘土の水分を抜く。
しかもただ放置するのではなく、乾燥にムラが出ないよう、
日々向きや場所をこまめに変え、鬼瓦の状態に気を配りながら。
実に手間ひまのかかる仕事だ。

鬼瓦が完全に乾いたら窯入れ。

窯の左右に6箇所ずつある火吹き穴に2〜3時間おきに点火。
徐々に窯のなかの温度を上げていき、
丸1日をかけて1100度にして火を止める。
920度になったら、炭酸ガスとブタンガスをなかに入れる。
こうすることで、鬼瓦の表面に炭素膜がつき、
“いぶし銀”という昔ながらの色に仕上がるのだという。

窯入れして1週間後。
土台づくりから1カ月半、ようやく鬼瓦が完成した。
古くより受け継がれてきた技と魂が生み出した
みごとな“いぶし銀”である。

鬼瓦 × けん玉

ニュークラフツづくりに挑む、若手鬼師の因章悟さん
完成した鬼瓦のソープディッシュ

使う人を笑顔にする鬼瓦のニュークラフツ

今回、ニュークラフツづくりに挑むのは、
山本鬼瓦工業の若手鬼師、因章悟(いんしょうご)さんだ。

図面を書き、土台をつくる因さん。
やや小ぶりの平たい物体には柔和な面立ちの鬼面が……。
鬼瓦のニュークラフツとは、いったいどんなものなのか。

通常の鬼瓦づくりと同じように、長い時間と手間ひまをかけ、
オーダーした鬼瓦のニュークラフツがついに完成した。

それは「鬼瓦のソープディッシュ」。
鬼瓦ならではのいぶし銀とユーモラスな鬼の顔のデザインが
みごとにマッチした逸品である。

朝、顔を洗うときに、使う人が笑顔になれるように、
鬼面も柔和な笑顔にしてみました。
― 因章悟さん

自然素材の粘土でできているため、水切れもよく、衛生的。
しかも、毎日の手洗いを楽しいものにしてくれる、
これぞまさに鬼瓦のニュークラフツである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.034 鬼瓦のソープディッシュ

ダイジェスト動画

放送第34回:鬼瓦のソープディッシュ

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