セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第38回 エレガントにワインを開けるフォイルカッター

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軟鉄と鋼を組み合わせることで、鋭さと軽さを増した「裁ち鋏(たちばさみ)」。
日本ならではの製法でつくられる裁ち鋏のニュークラフツは、ワインのフォイル部分を切り取るフォイルカッター。

裁ち鋏の伝統

刀鍛冶の吉田弥十郎がつくりあげた裁ち鋏
軽く切れ味鋭い総火造(そうひづくり)の裁ち鋏

日本刀の技術を応用した裁ち鋏

鋏の歴史は古く、
およそ3000年前の古代ギリシャには存在していた。
当時はU字型の握り鋏で、羊の毛を刈る道具だったようだ。

中国を経て日本に伝来したのは6世紀頃。
奈良時代には、蝋燭用の芯切り鋏が朝鮮半島からもたらされた。
江戸時代初期には、
当時としては珍しい徳川家康愛用の洋鋏が残されている。
洋鋏は明治以降、洋服の浸透とともに庶民に普及。
当時、羅紗と呼ばれる厚手の洋服生地の裁断に使われたのは
舶来の裁ち鋏だ。
しかし、これは巨大で重くとても扱いづらく、
日本人向けにアレンジした裁ち鋏が誕生した。

つくったのは、刀鍛冶の「吉田弥十郎(よしだやじゅうろう)」。
弥十郎はオリジナルの裁ち鋏を開発するにあたり、
日本刀のつくり方を応用した。
舶来の裁ち鋏が鋼だけであったのに対し、
軟鉄と鋼を組み合わせることで軽く切れ味鋭い鋏をつくりあげた。

総火造(そうひづくり)と呼ばれるその技法は
職人たちに脈々と受け継がれ、
今なお多くの仕立て職人から絶大な支持を集めている。

裁ち鋏の技術

裁ち鋏職人の大河原享幸さん
軟鉄を火床(ほど)で加熱する
鳥口(とりぐち)を使いながら、輪になるように両端を曲げる
イボと呼ばれる突起部分をつくる
交互に鉄を金槌で打つ「相槌」
「輪曲げ」を終え、ふたつの刃がぴったりと合った
松炭で「焼入れ」をする
鋏の切れ味を決める「裏研ぎ」
完成した総火造の裁ち鋏

一人二組の熟練の技術

東京都葛飾区。下町の一角にその工房はある。

黙々と作業するのは、伝統的な技法、総火造で「裁ち鋏」をつくる
数少ない職人のひとり、大河原享幸さん(おおかわらたかゆき)さん。
15歳のとき、だれに教わることなく
裁ち鋏つくりあげたという天才肌だ。
今回は、標準的なサイズである24㎝の裁ち鋏をつくる工程を
見せていただいた。

裁ち鋏づくりは、制作の責任者である横座と
その補助を務める先手(さきて)の二人一組で行われる。
材料の鉄には比較的柔軟で加工しやすい軟鉄を使用。
それを火床(ほど)と呼ばれる高温の炉で加熱する。
まずは切り取りの作業。
握り部分と刃の部分の境い目にあたりをつけ、金槌でくぼませる。
次にタガネを使って、つくる鋏にあわせた寸法に切断。
物差しは一切使わず、すべて目見当だ。

続いて輪ごしらえ。
まずは、親指以外の4本の指を入れる下指をつくる。
輪をつくるため、タガネを使って分け目を入れ、Y字型に開く。
闇雲に力で打ち潰すのではなく、
微妙に強さを加減しながら正確に金槌を当て、形を整える。
鳥口(とりぐち)と呼ばれる独特の道具も使いながら、
輪になるように両端を曲げて接合。
そのときに用いるのは、ホウ酸と鉄粉を混ぜた接合剤だ。
これを先端部分にふりかけ、両端の接合部をおおまかに重ね合わせ、
およそ900度に加熱する。
接合部をすばやく金槌で打ち、一体化させる。

次に親指側の輪ごしらえ。
こちらはまず、軟鉄にタガネで穴を開け、
鳥口の傾斜をうまく利用しながら、輪を広げる。
イボと呼ばれる突起部分をつくるのが、とくに難しいそう。

鍛冶職人は皆、このイボづくりに苦労します。
なかなか、突起を出せる人がいないんです。
高いお金を出して買っていただくものなので、緊張しますね。
真剣です。
― 大河原享幸

鍛接(たんせつ)の工程では、
刃になる部分の裏に硬い鋼(はがね)をつける。
仕上がりがより綺麗になるよう、ホウ砂とホウ酸、
鉄粉でつくった接合剤を、刃になる部分にまんべんなくふりかけ、
鋼をのせて、およそ900度に加熱する。
横座と先手が向かい合って
交互に鉄を金槌で打つことを相槌というが、
これが転じて、相手の話に調子を合せることを
「相槌を打つ」というようになったそう。
伝統ある裁ち鋏は、職人たちの阿吽の呼吸から生まれるのだ。

ほどよいバランスが使いやすさを生む

続いての工程は、軸曲げ。

バランスを取るのが軸曲げです。
商品の価値はこの軸曲げで決まります。切れ味と同じくらい重要です。
― 大河原享幸

親指側の軸曲げはとくに熟練した技が必要となる。
できあがったふたつの刃を合わせてみると、みごとにぴったり。

荒削りは、表面に付いた酸化皮膜や余分な厚みを
グラインダーで落とす作業。
握り部分の内側は、鋏の使い心地に大きく影響するので、
数種類の金ヤスリで丹念に仕上げる。

そして、いよいよ焼入れ。
焼きが刃全体に均一に入るよう砥の粉(とのこ)を塗る。
炭素量が多い松炭を使うことで、より硬い刃物に仕上がるのだそう。
焼入れに適した温度はおよそ750度から800度。
それより低いと焼きが入らず、また高いと鋼がもろくなってしまう。
全体があずきいろより少し白くなったころを見計らい、
すばやく水で冷やす。
続いて150度の油で1時間ほど煮て、焼戻しを行い、
再び鋼に粘りとしなやかさを与える。

曲がり取りは、焼入れによって生じた変形を修正する工程。
金槌やねじり木と呼ばれる独特の道具を使い、丁寧に形を整える。
その後、焼入れで再び付着した酸化皮膜を取り除き、
バフで表面を磨く。

へらがけは、日本刀の磨きの技術を鋏に応用したもの。
イボタというカイガラムシを潰した粉をかけ、カネベラで磨くことで、
独特の光沢を出す。

続いての裏研ぎは、鋏の切れ味を決める最も大事な作業だ。
湾曲した台にそってサンドペーパーをかけ、
刃の裏に適度な凹みをつくる。ふたつの刃が最適に擦れ合うように、
時間をかけ、念入りに調整し、ネジを入れて組み立てる。
閉じた鋏を真横から見ると、わずかな隙間がある。
常に刃が2点で交わるよう、微妙なねじれや凹み、
反りを入れることで、鋭い切れ味を生み出すのだ。

刃同士がつよく当たるとダメ。
刃が擦れず長く切れるよう、軽く当てるようにするんです。
グッと曲げてしまうと、そのときはよく切れますが、
すぐ切れ味が悪くなってしまうんです。
― 大河原享幸

天然砥石を使って、刃を仕上げる。

最後は、塗りの作業。
握り部分に、下塗りを施し、1日乾燥させ、
漆に似た光沢をもつカシュー塗料で塗装。
その際にできる気泡などは、爪楊枝で丁寧につぶす。
2、3日乾燥させれば、ようやく完成。
総火造の裁ち鋏は、彫刻のような気品すら漂う、至極の逸品だ。

裁ち鋏 × フォイルカッター

槌さばきによって姿を変えていく鉄
完成した裁ち鋏のフォイルカッター

ワインを開ける楽しみが増す鋏のニュークラフツ

今回、ニュークラフツづくりに挑むのは、大河原享幸さん。
今回のオーダーについて伺うと……。

これはずいぶんと難しい注文ですね(笑)。
これまでつくってきたものとはまるでちがうので、びっくりしました。
― 大河原享幸

大河原さんのみごとな槌さばきによって、
鉄がみるみる姿を変えていく。
果たしてどんなニュークラフツが生まれるのだろうか——。

オーダーした裁ち鋏のニュークラフツがついに完成。
それは、ワインのフォイル部分を切り取るための
「裁ち鋏のフォイルカッター」。
ワインボトルの口を挟んで、くるりと回せば……
安全かつ綺麗にカットできる。

丸いところを切りますから、刃を真っすぐではなくて、
丸くしたほうがいいのではないだろうかと思ってつくりました。
― 大河原享幸

すこし面倒だった作業もエレガントに演出。
これぞまさに裁ち鋏のニュークラフツである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.038 裁ち鋏のフォイルカッター

ダイジェスト動画

放送第38回:裁ち鋏のフォイルカッター

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