セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

第8回 江戸の美意識が息づく江戸指物のキーボックス

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余計な装飾は一切なく、木目の美しさが際立つ「江戸指物」は、
粋を愛した江戸っ子の美意識が育んだ伝統工芸である。
今回のニューアイテムは、飽きのこないシンプルなデザインと堅牢さをいかした「江戸指物のキーボックス」。
そこには昔ながらの職人の技と知恵が込められていた。

江戸指物の伝統

江戸指物
金釘を一切使用しない
見えないところに手技を注ぐ

江戸っ子の好みを反映した“粋”な指物

信じられない手間ひまをかけてつくられる江戸指物。
その魅力にとりつかれ、15年前に脱サラし東京・谷中に江戸指物を
専門に展示するお店を開いた店主の永尾茂久さんは言う。

見えないところに手技のすべてを注ぎ込むところが
本当に素晴らしい。
完成品は、職人がどれだけ苦労したかなど、
それを手にしたお客様には微塵も感じさせません。
道具として堅牢さをもちながら、見た目は華奢。
これみよがしの煌びやかさを見せないところが“粋”なんです。
ー 永尾茂久

日本で指物がつくられるようになったのは千数百年前のこと。
平安時代には、京都の公家文化のもと雅趣豊かなものに発展し、
これが京指物として確立。
すると、やがてその技は各地に広がり、その土地の文化や風土に応じ、
大阪唐木指物や名古屋桐箪笥、松本家具などさまざまな指物が生まれた。

そして江戸時代、江戸幕府の開府に伴い、
徳川家康は全国から腕利きの指物師を呼び寄せた。
当初は武家階級の調度品をつくらせるのが目的だったが、元禄時代以降、
指物師たちは台頭してきた町人のために腕を振るうようになり、
作風は江戸っ子好みに変化。
「飾り立てるのは野暮、隠れたところに凝るのが粋」という
独自の美学が指物にも反映され誕生したのが江戸指物だ。

粋を重んじる歌舞伎役者たちもまた、江戸指物の発展に大きく貢献した。
その関係は今なお続いている。

4代目・市川左団次さんの楽屋鏡台は、総島桑づくりの江戸指物である。

襲名した39歳くらいのときにつくったもの。
それからずっと使いつづけてきましたが、
それでもまったくぶれもしないし不具合もない。
たいしたもんだよ。
職人さんがすごいんだね。
死ぬまで使うんじゃないの。
ー 4代目・市川左団次さん

江戸指物の技術

江戸指物の職人 戸田敏夫さん
100万円の文箱(ふばこ)
木取り
ほぞ切り
小さな豆鉋(まめかんな)
盛り
生漆(きうるし)を塗る
完成

精緻を極める伝統の技

金釘をいっさい使わず、
木と木を指し合わせてつくる江戸指物には、シンプルな外観からは
想像もつかないほど、精緻な職人技が施されている。
そんな日本が誇る伝統の技を知るべく訪れたのは、東京・根岸の工房。
戸田敏夫さんはこの道45年、江戸指物の第一人者である。

見せていただいたのは今年1月に完成した文箱、手紙入れ。
価格は100万円。
これを高いと見るか安いと見るか。
その工程をみれば値付けの理由がわかるだろう。

完成から遡ること3カ月前。
工房には材料を選ぶ戸田さんの姿があった。
厳選して買い集めた木材を、ときには20年以上寝かせてから使う。

日本特有の四季を考えると、素材選びは
湿気を吸って吐いてを何年繰り返したかが肝心です。
20年くらい寝かせたものでなければ安心して使えません。
ー 戸田敏夫

木は種類によって、見た目も性質も異なる。
今回選んだのは独特の光沢と
美しい木目を持つ島桑(しまぐわ)と呼ばれるもの。
なかでも、伊豆七島・御蔵島産の最高級と称される島桑を使用する。
戸田さんが30年前に購入したこの素材は、30万円以上するという。

まずは、素材の木目の美しさを最大限に生かすため、
どの部分を切り出すかを吟味する。
これが「木取り」と呼ばれ、作品の顔を決める大事な作業だ。

続いては「鉋(かんな)掛け」。
島桑はとても固いので、鉋をかけるのも重労働だ。
寸法通りの大きさ、厚さになるまで
何度も水平を確認しながら削り続ける。
この作業だけで2日間を要した。

そして最大の難関が「ほぞ切り」だ。 ほぞとは板と板を接合するときに、一方に付けるでっぱりのこと。
それをほぞ穴に嵌め込むのだ。
江戸指物の粋(すい)がここにある。
使用するのは10種類以上の鑿(のみ)。
ほぞを切るのに設計図はない。
戸田さんは鑿の幅に合わせ、目見当で間隔を決めていく。
ほぞが仕上がると、指し合わせる板にその形を錐(きり)で写しとり、
ほぞ穴をつくる。
これが伝統的なやり方。
実に合理的である。

見えないところに心血を注ぐ職人の矜持

金釘を使えば板を組むのは簡単だが、
釘はいずれ錆びてしまい、強度が落ちる。
一方、ほぞは一度組めばしっかりとかみ合い、
差し込んだ方向以外には絶対に抜けない。
長く堅牢さを保つには、ほぞに勝るものはないのである。

ものが壊れるときは、端から。
端の強度を高めるために細かなほぞを組むのです。
ー 戸田敏夫

板の接合面は、斜め45度に切り落とす。
こうすることで隙間なく板が直角に合わさり、ほぞが綺麗に隠れる。
しかし、戸田さんはこの見えないところにこそ心血を注ぐのだ。

もっと幅の広い鑿で彫れば、作業量は少なくなるでしょう。
では、なぜ細かなほぞを組むのかというと、
もちろん強度を高めるためでもありますが、
それよりも自分の納得できる仕事をするため。
ただそれだけです。
ー 戸田敏夫

続いては、文箱の天板(てんばん)と側板(がわいた)を組み合わせる作業。
角を90度に削り取る鉋を使い、
側板の上にまっすぐな細いほぞをつくる。
ここに戸田さんの驚くべき計算があった。

樹皮に近い、白太という部分があります。
ここが表に出てしまっては、
経年変化で色が焼けたときの色合いがちがってきます。
最初からこの部分がほぞのなかに隠れるように、
計算をして気取りをしているのです。
ー 戸田敏夫

戸田さんが手にしたのは小さな豆鉋。
自作の鉋で全体が華奢に見えるよう面取りし、細かな表情をつけていく。
これを「盛り」という。

わずかな面の取り方で、すべてのバランスが変わってしまう。
指物ってのは、見た目がごつくちゃだめ。
やはり華奢でありながら、
堅牢でなくてはいけないという決まりがありますから
ー 戸田敏夫

板材を指し合わせたら、磨き。
トクサやムクの葉を使い、細かな傷を落としていく。
ここまで約50日。
最後の仕上げは、塗師(ぬし)である和氣則雄さんの仕事。

生漆(きうるし)を塗っては拭いて、室(むろ)で乾かすという
摺漆(すりうるし)塗りを1カ月ほど繰り返す。
漆を薄く重ねることで、輝きが増す。
そしてようやく完成。
苦労の跡を微塵も感じさせない、美しくすっきりした仕上がりだ。

見えないところに贅を凝らすのは職人として当然のことです。
難しいのは“品格”を出すこと。
手をかけたからといって、いいものができるわけではありません。
ー 戸田敏夫

江戸指物 × キーボックス

デザインを練る
完成品
鍵をかける部分は丈夫なツゲの木で

家族を見守る江戸指物のキーボックス

飽きのこない洗練されたデザインで丈夫な江戸指物は、
まさに一生もののアイテムである。
そんな江戸指物のニュークラフツには、
代々受け継がれるものがいい――。
製作を依頼したのは、冒頭でも登場いただいた戸田敏夫さんだ。

戸田さんは、前例のないアイテムということで、
デザインに時間をかけたという。
そんなアイムの素材に選んだのは、北海道産のタモ材。
「北海道の材料は、手触りがしっとりとしていて
粘りがあって折れにくい」のだとか。
木目には、湿気、乾燥に強く、
落ち着いた雰囲気を醸し出す柾目を選択した。

長方形の底板に枠をつける戸田さん。
より頑丈に、そしてデザイン性を高めるためだという。
いったいどんな新アイテムができあがるのだろうか。

完成したのは小ぶりな箱。
スっと蓋を持ち上げると、なかには鍵が。
そう……、キーボックスである。
洗練されたシンプルなデザインと美しい木目が、
玄関先に落ち着きをもたらしている。

表面は、あえて漆を塗らず木地(きじ)仕上げに。
さらに鍵をかける部分には堅くて丈夫なツゲの木を使用するなど、
いたるところに職人のこだわりが宿る。

経年変化によって表面が焼けて、徐々に飴色に変わっていきます。
つまり、そのご家庭の色になっていくわけです。
我々はものをつくるまでが仕事ですが、それを育てるのはお客様。
いいかたちで育ててほしいですね。
ー 戸田敏夫

家を見守り、家族の絆を深める――まさに“キーアイテム”。
時を経るごとに魅力を増す、江戸指物のニュークラフツである。

アーツ&クラフツ商会 Lot.008 江戸指物のキーボックス

ダイジェスト動画

放送第8回:江戸の美意識が息づく江戸指物のキーボックス

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