セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

スペシャルトークショー 武田双雲

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「アーツ&クラフツ商會出張展in二子玉川 蔦屋家電」。
初日の8月8日は、書道家・武田双雲さんをお迎えしてのスペシャル・トークショーを行いました。
書道家・武田双雲
2000年近く製法の変わらない書の道具
墨を摺る

日々の“ワクワク”が変わらぬ価値を生む

武田さんは、NHK大河ドラマ『天地人』をはじめ、
映画やテレビ番組の題字などでもおなじみの、
独特の力強い書で人気の書道家です。
一方で家庭ではよき父親としての側面もあります。
そんな武田さんに「世代を超えて続く価値」、
そして「人生を楽しむ力」をテーマにお話いただきました。

今日、蔦屋家電に入った瞬間に、一目惚れしたものがあります。
それが、この草履。かっこいいなと思う靴があっても、
僕の大きな足にはだいたい入らないんですね。
だから、これもどうせ僕の足には合わないだろうと思って
足を入れてみたんですが、
なんと、ぴったり! すぐにこの草履を手にレジに向かいました。
今日は、そんな運命的な(笑)出会いがありました。
なんとなく僕の顔のカタチにも、
手彫りの硯(すずり)にも似ているでしょう?
心ふるわせるものとの出会いって本当に貴重なものですよね。

たとえば、この硯。美しいでしょう?
これは長崎県対馬の石でつくられたものなのです。
作者は、僕が尊敬する硯作家でアーティストの雨宮弥太郎さん。
熊本県で江戸時代より硯づくりをつづける
雨宮家の13代目の当主でもあります。
僕は「硯界のフェラーリ」と呼んでいるのですが、
これはそれほど貴重なものなのです。
手彫りならではのなめらかな曲線をみてください。
鑿(のみ)一本でつくっているなんて信じられませんよね。

この硯や筆、墨って、
2000年くらいまったく製法が変わっていないのをご存知でしょうか。
なぜ変わらないかというと、それらはすでに完成されていたから。
いろんな職人さんが、変えようとしたらしいのですが、
みなうまくいかなかったそうなんです。

2000年近く製法の変わらない書の道具。
当然“摺(す)る”という行為も昔から変わっていません。
実際に摺ってみますね。墨の持ち方は自由ですが、
少ない水で、ひらがなの“の”を描くように、やさしい力で、
本当にやわらかく手を動かします。
こうして1時間ほど、いい香りだなあと思いながら墨を摺り続けると
瞑想状態に入ります。
悩みごとがあったら墨を摺ればいい、と昔の人はわかっていたんですね。
それに、このしゃっ、しゃっ、しゃっ、という摩擦によって、墨、
つまりカーボンの粒子がぶつかり合いながら、
エネルギーを放出しているんです。
我々はそんなパワーを感じているのかもしれません。

世界中の優れた職人さんたちを見てきて思うことがあります。
それは、伝統文化の本質を見極め、
過去から未来へと受け継がれる“流れ”に、
いかにして気持ちよく乗れるか、ということ。
上手なサーファーと同じです。
本質をつかみ、未来へと伝えていくこと。
この“変わらない”ところにこそ、価値が生まれるんです。

よく企業研修のセミナーで「モチベーションを高める」
といったテーマで講演をさせていただくことがあります。
そこで面白いことに気づきました。
一般にはクリエイティブとされる職種の人よりも、
職人さんのように日々同じ作業を繰り返している人のほうが、
いい表情をしています。
つまり、ルーティンワークのなかにクリエイティブなことを
見つけられる人のほうが実は、モチベーションを高く保ち、
いきいきと日々を過ごしているんです。
繰り返される日常に飽き飽きしている人とかいるじゃないですか。
でも、そうではありません。
その“繰り返し”のなかにこそ、新しさがあるんです。

完成したのは「湧」という字
力強いメッセージで来場者の共感を誘った

――最後に、
「武田さんにとって“時を経ても続く価値”とは何でしょうか」
と尋ねられ、考えること数秒。
「書にしていいですか? イメージがぱっと浮かんでしまったので」
と筆をとる武田さん。
完成したのは「湧」という字。
「いい書です」と自画自賛の書に込めた想いとは。

僕は湧き水が大好きで、
水が湧くところに佇んでいるのも好きなんです。
“湧く”ってとても大事なこと。
湧き上がるものがない状態で、
何かを続けることほどつらいことってないですよね。
変化のない単調な日常のつまらなさを人のせいにしていたら、
その人の日々は、ずっとつまらないままでしょう。

道具とともに何千年と変わらない書という表現が
なぜ受け継がれてきたというと、
そこには常に人を“ワクワク”させる何かがあったから。
文化は“守らなければ”という意識だけで受け継がれるものではありません。
そうではなく、書という表現や道具の数々に、
いつの時代も人をひきつけてやまない魅力があったからこそ、
今日まで受け継がれてきたんですね。

通勤って楽しいな、夫婦でいっしょに過ごせて楽しいな、だとか、
夏の暑さも楽しいな、とは思えないかもしれませんが(笑)、
日々の暮らしのなかで、
つねに“ワクワク”する生き方を選択していくこと。
それがずっと続く価値になっていくんじゃないかな。

――日々の暮らしにおいて、
ポジティブな選択を積み重ねていくことの大切さ。
それこそが真のクリエイティブであり、変わらない価値を生む―。
その書同様、力強いメッセージで来場者の共感を誘った武田双雲さん。
会場を後にする参加者の晴れやかな顔は、そのことを物語っていました。

写真:吉野久

PROFILE: 武田双雲(たけだ・そううん)

1975年熊本生まれ。東京理科大学卒業後、NTTに就職。
約3年後に書道家として独立。
NHK大河ドラマ「天地人」や世界遺産「平泉」、
世界一のスパコン「京」など数々の題字を手掛ける。
独自の世界観で、全国で個展や講演活動を行っている。
メディア出演も多数。
主宰する書道教室には約300名の門下生が通う。
2013年度文化庁から文化交流使に任命され、
ベトナム~インドネシアにて活動するなど、
世界各国から様々なオファーが絶えない。
作品集「たのしか」「絆」「ポジティブの教科書」など、
著書は30を超える。
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