セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

日々の想いの蓄積から生まれる価値 -笹岡隆甫×小山薫堂

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「アーツ&クラフツ商會 出張展 in 京都 下鴨茶寮」。
9月6日(日)に開催した前夜祭で、華道家・笹岡隆甫さんと当番組企画者の放送作家・小山薫堂さんの
スペシャルトークセッションを行いました。
(左)小山薫堂 (右)華道家の笹岡隆甫
「伝統を受け継ぐこと」について語る
ギャラリーに飾られた生花

京都の老舗料亭空間に出現した「アーツ&クラフツ商會」。
そのオープニングとして
「伝統文化」に携わる二人が言葉を交えました。
一人目は、今最も注目を集める若手華道家、
未生流笹岡(みしょうりゅうささおか)三代家元、
笹岡隆甫(りゅうほ)さん。
祖父である二代目の指導を受け、2011年に三代家元を継承。
舞台芸術としての生花の可能性を追求し、国内外で生花パフォーマンス
を披露するなど、日本文化の継承者として活躍されています。
もう一人は、放送作家・脚本家、
そして下鴨茶寮の亭主などさまざまな顔をもつ小山薫堂さん。
お二人には、「伝統を受け継ぐこと」、
そして「ずっと変わらない価値」をテーマにお話いただきました。

小山:
「下鴨茶寮」の経営を五代目女将から引き継いだのは
今から3年前のこと。そこでまず直面したのは
伝統を受け継ぐことの難しさでした。笹岡さんは三代目ですが、
京都では伝統を受け継ぐことってどのように考えられているんですか?

笹岡:
私がお稽古をはじめたのは3歳のとき。まだ幼いですから、
あたりを走り回りながら、遊びの一貫として花を生けていました。
なんだか楽しいな、という感覚ですね。
ですから、跡継ぎであることをプレッシャーに感じることなく、
ただ楽しいから生花を続けているうちに今に至ります。

小山:
それは理想的なかたちですね。

笹岡:
それに京都には独特の風習があって、跡継ぎを特別扱いするんです。
たとえばお年玉。私のだけ妹や弟たちとは一桁ちがうんですよ。
こうすることで、「跡を継ぐっていいものなんだな」
という意識を植え付けるんです。

小山:
そうすることで強制ではなく、
自然な流れで伝統が受け継がれていくわけですね。
僕の場合、下鴨茶寮の亭主として伝統を受け継ぐといっても、
そもそも京料理って何だろうというところから
考えなければなりませんでした。
京料理も他の伝統と同様に、つねに変わりながら続いてきたものなので、
定義があるようでないんです。まさに、伝統は革新の連続であり、
変わることによって受け継がれていくわけです。
笹岡さんは大学の建築学科を出ておられますが、
建築の場合はどうなんでしょう?

笹岡:
実は私、生花の次期家元がなぜ?と言われながらも、
建築学科を卒業しています(笑)。
ちなみに専攻は日本建築の歴史だったんですが、
日本建築と生花ってよく似ているんですよ。
共通点は、アシンメトリー(**)であること。
西洋の建築は基本的にはシンメトリーですが、
日本ではアシンメトリーなものが多いですよね。
たとえば、世界最古の木造建築である法隆寺もそう。
片側に五重塔があり、もう一方には金堂がどっしりと構えている。
生花も時代によって変化して、さまざまな新しい型が生まれましたが、
やはり基本は左右非対称です。こうした日本人の好みは、
今も根本的には変わっていないように思います。

**左右非対称であること。

ギャラリーに飾られた生花
「交換こけし」について語る

小山:
生花も時代とともに変化を重ねてきたということですが、
いちばん変えちゃいけないところってどこなんですか?

笹岡:
どこだと思います? 当ててみてください。

小山:
ちょっと待ってください……。生きているお花を生けること?

笹岡:
ほぼ正解とさせていただきます!
答えは「花の命を最後まで見届けること」。
尊い命を最後までお世話をして、そこからいろんな教えを乞うのが
生花なんです。花の命を扱うことへの感謝の念を失ってしまっては、
華道家としていくら綺麗なものを生けたとしても、
まるで意味がありません。
そこだけでは変えてはいけないところですね。

小山:
料理もまったく同じ。
日本人の「いただきます」という言葉は、命をいただきます、
という感謝の念の現れですものね。

笹岡:
そういう想いって、普段は忘れがちですよね。
だからこそ、そんな大切なことを思い出させてくれる時間を
大事にしたいと思います。
小山さんが考案し、番組でつくられた「交換こけし」もまた、
素敵な時間を与えてくれる存在ですよね。

小山:
手紙を書いて送り、そして待つ時間もまた、
いろんなことに考えを巡らせたりする、豊かな時間ですよね。

笹岡:
4歳の娘と2歳の息子が、毎日のように僕に手紙を書いてくれるんです。
「お父さん大好き」とか。
本当に嬉しくて、すべて残しておきたいと思うのですが、
そういうのっていつの間にかどこかにいっちゃうんですよね。
でも、この交換こけしを通してお互いの想いを伝え合うことができれば、
手紙がなくなってしまっても、2人だけの歴史が
こけしには刻まれていく……。
うーん、素晴らしい!

守るべきところはしっかりと守り、変えるべきところは変えながら、
伝統を受け継いでいく――。
そんな職人たちとのコラボレーションによって生まれた
ニュークラフツの本当の価値を改めて確認する笹岡さんと小山さん。
最後に、そんな両者にとっての「時を経ても続く価値」を伺うと――。

笹岡:
花を生けるときはもちろん、生きていくうえでも大事なことって、
感謝の念だと思うんです。交換こけしのように、感謝の気持ちをもって
大切に使えば使うほどに、そこにはさまざまな想いが蓄積され、
価値が生まれるのではないでしょうか。

小山:
まさに、おっしゃるとおり。
住宅にたとえるなら、ずっと住まうほどに、想い出が蓄積され
住まいが愛おしくなる、そんな積もる想いをいつまでも大切に
育んでくれる家こそが、変わらぬ価値を生むのではないでしょうか。

伝統は意図して受け継がれてきたものではない。
いつの時代にもふさわしい魅力を放っていたために
今日まで受け継がれてきたもの。
先人たちの試行錯誤と絶え間ない努力によって育まれてきた
確固たる伝統は、人びとのさまざまな想いを反映させながら、
新たな価値を生み出していく――。
お二人のトークセッションは、そんなことを再認識させてくれた。

写真:宮野正喜

PROFILE: 笹岡隆甫(ささおか・りゅうほ)

華道「未生流笹岡」家元。
京都ノートルダム女子大学客員教授。
1974年京都生まれ。
京都大学工学部建築学科卒業。
3歳より祖父である二代家元笹岡勲甫の指導を受け、
2011年三代家元を継承。
舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、
国内外で花手前(いけばなパフォーマンス)を披露。
近著に『いけばな』(新潮新書)。
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