セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

“長い流行”を生む定番の力 -水野学

TOP > インタビュー/レポート > スペシャルインタビュー 3 水野学
「くまモン」のデザインをはじめ、
企業のロゴや商品開発からブランドの長期的なコンサルティングまで、
多彩な仕事をこなすクリエイティブディレクターの水野学さん。
そんな水野さんが考える、時代に左右されない、長い流行の作り方とは?

 “長い流行”を生む定番の力

デニムパンツの定番といえば、
多くの人がリーバイスの501を挙げるのではないでしょうか。
501より幅が大きいとワイドだし、細いとスリムだとされる。
すべて501を基準点として語られるわけです。
そのような物差しとなるアイテムが今は少なくなっているんじゃないか、
ジーンズにおける501のような定番になれるアイテムを
いろいろなジャンルでつくりたいな、と思ったんです。

そこで考えたのが「THE」(*)というブランド。
たとえば、醤油差し。
たいてい、醤油を入れようとすると、液だれするじゃないですか。
あれは嫌ですよね。
みんなそう思っているはずなんですよ。
でも、“液だれしない”商品がなかなかない。
だから、僕たちはまず“液だれしないこと”から、
醤油差しの定番づくりをはじめようと思ったんです。
デザインって、“装飾”だと思われがちなんですけど、そうじゃない。
装飾もデザインの一部なんだけれども、
だれでも使いやすいという“機能性”が大事。
この二つがシナジーしてこそ、
時代に左右されない長い流行が生まれると思うんです。

そもそも、人間がつくったもので、
何千年も使われつづけているものなんてないですよね。
長く愛されているアイテムというのは、
長い流行が続いているだけだと僕はとらえています。

じゃあ、その流行を生むためにはどうすればいいかって言うと、
それは“許容値(きょようち)”が広いかどうかに尽きると思うんです。
つまり、絶対にこれじゃなきゃだめ!ってほどの熱い愛情を
持っている人は多くないとしても、嫌いだっていう人もいない、
みんなが受け入れやすくて、誰もが使いやすい。
この許容値が大きいほど、長く使われる、
いわば定番のアイテムになりやすい。
だから、長い流行をつくるには、
みんなに受け入れられる“機能”が大切なんですね。
これに比べたら、奇抜な装飾を施した商品は、
一発屋と呼ばれる芸人と同じで、
一時的にはものすごく売れる可能性があるけど、
飽きられるのも早いんです。

実は、昔から陶器に興味があって。
学生時代なんか、夜が明け切る前から
陶器市に行ったりして、まだ準備中の薄暗がりを
懐中電灯で照らして掘り出しものを探してました(笑)。
どうしてこうも陶器が好きになったかって考えてみたら、
僕のデザインに対する考え方と
似ているからかもしれないなあって思うんです。
たとえば、北大路魯山人がつくった器は、
それ自体が抜群に美しいというわけじゃないんですよ。
そこに、料理を盛ると、俄然ものすごく美しくなる。
魯山人は、器は料理を愉しむためにあると考えていたんじゃないかな、
と感じるんです。

住宅も同じですよね。
器が料理の容れ物であるように、家は家族の容れ物。
そこで夫婦、親子の関係をつくっていくわけです。
ですから、その目的を果たすための“機能”が家には備わっていてほしい。
もちろん、ときが経てば、暮らしの目的も変わってくる。
僕なんかも、家族が二人のときと、子どもが生まれた後では、
家に求めるものがちがってきたので、引っ越しました。
それも“家族の今”にとって心地のいい、
快適な空間に住みたいからなんです。

それから夏に暑すぎる家や冬に寒すぎる家も嫌ですよね。
見た目だけではない、住んでみてはじめて感じる、住みやすさ、
快適さがありますよね。
環境が変われば、家に求めることも変わる。
そのときの目的を満たしてくれる家に住みたいですね。

*水野学さんがトータルプロデュースをつとめるブランド。
さまざまなアイテムの定番がそろう。
東京丸の内JPタワー内の商業施設「KITTE」4階に
THEのオリジナルショップ「THE SHOP」を展開。

写真:Naoaki Yamamoto

PROFILE : 水野学(みずの・まなぶ)

クリエイティブディレクター。good design company 代表取締役。
慶應義塾大学特別招聘准教授。1972年東京生まれ。
1996年多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。
1998年good design company設立。
主な仕事にNTTドコモ「iD」、熊本県キャラクター「くまモン」、
宇多田ヒカル「SINGLE COLLECTION VOL.2」「桜流し」、
「中川政七商店」、「東京ミッドタウン」、「久原本家」、
VERY×ブリヂストンコラボ自転車「HYDEE」シリーズ、
台湾セブンイレブン「7-SELECT」、ルミネ「iLumine」、
「adidas」ほか。
近著に『センスは知識からはじまる』(朝日新聞出版)ほか。
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