セキスイハイムpresents

アーツ&クラフツ商会

【放送】
毎月 第一および第三月曜日
夜11:00~11:30
ナビゲータ/坂井真紀

永く続く価値を生む“心”に響くものづくり -挾土秀平

TOP > インタビュー/レポート > スペシャルインタビュー 5 挾土秀平
高級ホテルのロビー、レストラン、バー、あるいは茶室や土蔵など、あらゆる空間を「土壁」で彩る異能の左官職人、挾土秀平さん。
近年では、テレビドラマの題字や土壁アート作品を手がけるなど、“職人”の枠を超えた多彩な活動でも知られる、
現代を代表する“クリエイター”の一人である。そんな“革新者”が語る永く続く価値とは……。

永く続く価値を生む“心”に響くものづくり

僕が敬愛する江戸時代の絵師、伊藤若冲(*1)や
現代の漫画家、井上雄彦氏(*2)の作品を前にすると、
見る者を鷲づかみにする強烈な個性、
そして卓越したセンスの良さに圧倒されて、
湧き出る感情が言葉にならず、
ただ「すごい」としか言えなくなります。それこそが天才の証。
なんだかよくわからないけど「すごい」んです。

でもこの「なんだかよくわからない」ことが、重要なんです。
つまり、複雑にして簡潔、あるいは地味だけどよくみると華麗、
といった相反する要素が混ざり合い、
見るほどに魅了される“奥行き”を感じさせる、
曰く言い難い“美しさ”とでもいうのでしょうか。僕が目指すのもそこ。
若冲や井上雄彦氏の作品のように、
「なぜかわからないけどいい」という領域。
そんな天才に少しでも近づこうと日々を生きています。

そんなことを考えるようになったきっかけとなったのが、
ある木彫りの作品との出会いです。
それは30代半ば。さまざまな困難と葛藤を抱え、
とにかくもがき苦しんでいたときのこと。
ふらりと訪れた骨董屋で僕の目にとまったのは、
地元高山を代表する彫師、先代村山群鳳(*3)の作品
<卵を温めているようにも見える一羽の鶏>でした。

まずは丸のみ一本で彫られたとおぼしき大胆な造形に一目惚れをして、
続いて箱書きを見ると、そこにあったのは「生きる」の文字。
無駄を削ぎ落とし、
むき出しの魂を感じさせるインパクトのあるフォルムと、
シンプルで力強いタイトルとがあまりにもマッチしていて、
その確かな技術と天才的なセンスに震えが止まりませんでした。
この作品は、自分もいつかはこんなすごいものをつくる人間に
なるんだと強く決意させ、生きる力を与えてくれたようなもの。
自然素材である「土」への興味が高まっていったのも、
ちょうどそのころだったと思います。

“体”にいいものなら、今の科学技術の力をもってすれば、
どんなものでも生み出せます。
しかし、疲れた“心”を癒せるのは、やはり“自然”だと思います。
今もし、ある空間を好きなようにしていいよ、と言われたら、
四方の壁と天井を土壁に、床も土間にした、
いわば「土」で包んだ部屋をつくってみたいですね。
想像するだけで、“なんだかよさそう”でしょ?
しかも土壁は、照明や音響効果も抜群で、
光と音にやわらかさと奥行きをもたらしてくれるんです。
“テクノロジー”に“自然”をプラスすることで、
その効果は何倍にもなる。
住まいに一つ、こうした“体”にも“心”にもいい空間が
あってもいいですよね。
それって、とてもぜいたくなことだと思いませんか?

“心の時代”とされる現代にあって、
ものづくりに携わる僕らが磨きをかけるべきは、まさにこの部分。
つまり“頭”ではなく、“心”に響くものづくりだと思うんです。
それこそが、“永く続く価値”を生むのではないでしょうか。

もちろん、そこには伝統に裏打ちされた優れた技術が必要です。
たとえば、旧家の立派な漆喰の壁のえも言われぬ美しさ
<純白だった壁が、長い時を経ることで艶やかな光沢と
象牙色を帯びていく>は、職人による本物の仕事が施されたことの証。
どんなモノでも時が経てば朽ちていきますが、
漆喰の壁のように枯れてなお美しいもの、
あるいは時を経て新たな美が見出されるものがあります。
そこには、洗練された職人の技と知恵が隠されているのです。


*1 江戸時代中期に活躍した絵師。
19世紀末に誕生した新印象派の技法を約200年先取りするなど、
天才画家として世界的な評価も高い。

*2 圧倒的な画力を誇る現代の漫画家。
代表作に『バガボンド』(講談社)、
『リアル』『SLAM DUNK』(いずれも集英社)など。

*3 岐阜県生まれの彫刻家。大正〜昭和時代前期に活躍。

写真:Kazuhisa Niizawa

PROFILE : 挾土秀平(はさど・しゅうへい)

岐阜県高山市生まれ。左官技能士。
1983年、技能五輪全国大会左官部門優勝。
2001年、「職人社 秀平組」設立。
土蔵や茶室などの伝統建築から、高級ホテルの
エントランスロビーまで、多彩な空間の壁塗りを手がける。
天然の土と素材で表現する独自の世界は、
和の伝統を感じさせながらもモダンかつ斬新で、
国内はもとより海外での評価も高い。
昨今では、NHK大河ドラマ『真田丸』の題字制作や、
画廊・ギャラリーによる個展活動も含め幅広い活動を展開する。
著書に『青と琥珀』、『歓待の西洋室物語』、
『光のむこう』(以上、木耳社)、
『ソリストの思考術 挾土秀平の生きる力』(六耀社)。
『ひりつく色』(清水弘文堂書房)など。
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